糖尿病も認知症もがんも引き起こす「慢性炎症」。毛細血管を通じて飛び火します!
「慢性炎症」はサイレントキラーとも呼ばれ、気づかぬうちに炎症が継続し、毛細血管を通してさまざまな病気を引き起こす。そのメカニズムについて、ハーバード大学&ソルボンヌ大学医学部客員教授・根来秀行さんに詳しく聞いた。
「慢性炎症」は飛び火して別の病気を引き起こす…
診療科も違う病気に、実は共通項があると話す根来教授。 「糖尿病、メタボ、アトピー性皮膚炎、認知症、躁うつ病、心臓病、脳卒中、がん…、これらの病気はまったく別の病気に見えますよね?ところが、一見無関係な病気の根本に、慢性炎症という共通項があったんです。例えば、躁うつ病はセロトニンなどの神経伝達物質の不足によると考えられてきましたが、その上流には慢性炎症があることがわかってきました」 ●慢性炎症 全身の臓器などに起きる持続的な弱い炎症。自覚症状は少なく、長く続くと臓器の機能が損なわれる。 「動脈硬化も、血管の中に過剰な脂質がたまることが原因とされていましたが、その発症や悪化には血管の慢性炎症が関係していることがわかっています。慢性炎症が続けば動脈硬化が進行し、脳で起これば脳梗塞、心臓で起これば心筋梗塞の引き金になります。厄介なのは、炎症は毛細血管を通じて飛び火するんですよ」 全身に張り巡らされている毛細血管が炎症のルートになるということだ。 「炎症が長引くと周囲の毛細血管が傷み、そこから炎症性サイトカインが入り込みます。この炎症性物質が血液に乗って全身に運ばれ、弱っている部位に取りついて炎症を起こし、さらなる病気を招くのです。認知症はアミロイドβというタンパク質が脳に蓄積することで発症すると考えられていますが、炎症性サイトカインが脳に運ばれると、アミロイドβが増えることが報告されています。 例えば歯周病は歯周病菌による慢性炎症ですが、糖尿病を引き起こすことがわかっています。炎症性サイトカインは血糖値を下げるインスリンの働きを悪化させるため、血糖値が高くなりやすいんです。このように慢性炎症は全身いたるところに広がる可能性があり、さまざまな病気のもとになります」 さらに慢性炎症は老化とも密接に関わっているという。次回、さらに詳しく聞く。 【教えてくれたのは】 根来秀行さん 1967年、東京都生まれ。医師、医学博士。この連載から生まれた『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』、『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(いずれも集英社)が好評発売中。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、世界の最先端で臨床・研究・医学教育にあたる 撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子