金星まであと一歩だった日本ラグビーが見せた強みと課題
もっともジョーンズHCは、勝利を義務付けられた職業指導者だ。 2007年のフランス大会では南アフリカ代表のアドバイザーとして優勝に貢献するなど、ワールドカップでの成功体験も持っている。日本代表を率いるいまも、「私の仕事ではない」ような領域の改善への執念は示している。アイデア練習も採り入れるのはそのためだ。 別角度からの解決も目指していよう。それは、選手が口々に発する「そもそも、ミスをしないこと」との言葉に現れている。4日の練習の直後、国内歴代最多キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)の「85」を誇るロック大野均はこう話している。 「マオリ・オールブラックスがアンストラクチャーからの攻めが得意だということを重々、注意していた。それでもやられたということは、ミスが起こってからリアクションしたのでは遅いんだな、と。まずはミスをしないことが、一番の対応策ですね」 ジョーンズHC体制下、ジャパンは連続攻撃にこだわってきた。パスの起点となる選手の周りに複数の受け手を配置する「シェイプ」を作り続け、相手に的を絞らせないアタックを繰り出す。そのためウイング山田章仁は、「ジャパンは皆で(前がかりになって)仕掛けるアタックをしているので、(球を奪われた際に脆くなる)リスクはある」と指摘している。 「攻守の切り替え」の際の危険性を背負って攻めるチームが「攻守の切り替え」に弱点を持つのなら、「攻守の切り替え」が起こりそうな状況を最小限にとどめたい…。「そもそも、ミスをしない」は、そうしたイメージから生まれた発想だろう。8日のゲームで示した陣形のマイナーチェンジも、「そもそも、ミスをしない」ために行う施策の一例だった。 ジョーンズHCは言った。 「勝てなかったことは残念。でもこの試合で、ワールドカップへの自信を得たと思う」 これでワールドカップも勝てる、と言えるほど現実は甘くなかろう。ただ、「自信」を得たのは確かかもしれなかった。特に、「寝ない」で組織体系を組み直した指揮官自身が…。 ジャパンはこの後、約2週間の欧州遠征に向かう。グルジア代表、ルーマニア代表とのテストマッチ(国同士の真剣勝負)を通し、実験的要素を含めた「ワールドカップへの準備」を重ねる。 (文責・向風見也/ラグビーライター)