タイガー魔法瓶 ECサイトでボトルの売れ行き急増のワケ
タイガー魔法瓶(大阪府門真市)のEC事業が好調だ。グローバル展開を見据えてEC事業の進め方を見直し、真空断熱技術に特徴のある「ステンレスボトル(水筒)」の専用ECサイトを新設した結果、それまでに比べて売り上げ10倍を達成した。 【関連画像】最もよく売れた「BENGAL TIGER(ベンガルタイガー)」と名付けた黄色のボトル。従来と異なるテイストが伝わる 「2020年12月上旬に、『ジャニーズJr.チャンネル』とタイアップして、ステンレスボトル専用ECサイトの公式Twitterを活用し、ECサイトとボトルを訴求するマーケティングを展開したところ、約1週間の売り上げが、通常時の10倍以上に伸びた」 こう語るのはタイガー魔法瓶取締役の浅見彰子氏だ。同社がECサイトで販売する、真空断熱技術を使った「ステンレスボトル(水筒)」の売り上げのことだ。なぜこんなに売れ行きが急増したのか──。ジャニーズJr.との動画タイアップだけが理由ではない。実は2020年7月3日、新たにステンレスボトル専用ECサイト「【タイガー魔法瓶公式】ステンレスボトル|オンラインショップ - タイガーボトル」を立ち上げたのだ。この新設したECサイトに売り上げ急増の秘密がある。 ●グローバル展開の先兵をボトルに託す タイガー魔法瓶は、炊飯器や電気ケトル、オーブントースターなどを扱う調理家電大手。しかし売り上げの多くは日本の国内市場で稼いでおり、「少子高齢化が進行する中、手をこまぬいていては将来、じり貧になる可能性がある」(浅見氏)。そこで3年前、本格的なグローバル展開に踏み切ることを企業として決断した。 とはいえ、調理家電という商品には各国の文化が色濃く反映され、ローカル向けにカスタマイズしないまま世界中で売れる可能性のある商品は、それほど多くない。そこでタイガー魔法瓶は、まずは世界市場に打って出る商品を絞り込むことに決めた。第1弾として選んだ商品がステンレスボトルだ。 ステンレスボトルを選んだのは、世界中で売れそうだという理由に加え、もう1つ、ブランディングという狙いがある。ステンレスボトルに採用されているタイガー魔法瓶の真空断熱技術は、「世界一の技術と自負しており、将来は真空断熱技術そのものを別の形で売り出したいくらい」(浅見氏)。そこでステンレスボトルを世界市場で販売することで、同社の真空断熱技術の素晴らしさについても、日本はもちろん世界中の消費者の間で認知が高まると考えたのだ。 タイガー魔法瓶はステンレスボトルを既に60カ国以上に輸出していた。しかし、大半は現地企業と代理店契約を交わし、現地のスーパーなど小売店で販売する“地上戦”方式を取っていたため、「価格競争に巻き込まれやすく、ビジネスとして必ずしも成功していなかった」(浅見氏)。そこで今回は、真空断熱技術など価格以外の訴求ポイントを強調しながら販売を続けるため、ECを使って“空中戦”方式を取ることにした。ECならば、国内向けでも売り上げ増とブランディング効果が期待できるというメリットもあった。 ●ECプラットフォームにショッピファイを選択 そうやってマーケティング支援企業のイーライフ(東京・渋谷)と組んで選んだのが、カナダのオタワに本拠を置くショッピファイ(Shopify)のECプラットフォームだ。ショッピファイのプラットフォームを選んだ主な理由として、浅見氏は以下の4つを挙げる。 第1に、サイトのデザインの自由度が高い。ショッピファイを使っているECサイトは大抵デザインが洗練されており、商品を売るだけでなくブランディングもしたいタイガー魔法瓶に適しているという。 第2に、注文が殺到しても、サーバーが落ちない、反応が遅くならない、在庫をきちんと管理できるといった明確な実績がある。 第3に、クラウドベースのプラットフォームなので運営コストが安く済む。スタート時は低額の負担で済み、サイトを改善しても多額の追加コストがかからない。 そして第4に、日本製のECプラットフォームに比べてグローバル展開がしやすい。世界各国の決済インフラや多言語に対応しているため、1つのサーバーで多くの国でのビジネスに対応できる。各国でサービスを展開しているため、現地で新たに倉庫や配送事業者を手配する際も、ショッピファイが既に活用して実績のある事業者を、それも低価格で利用できる可能性が高いというわけだ。