飛翔する若き歌舞伎役者・中村鷹之資:亡き父の背中を追い「新しいことに挑みつつ、古典歌舞伎を極めたい」
「実験」をしながら古典を極めたい
古典を継承するとは、変化を拒むことではないと言う。 「歌舞伎は生きている芸能です。実際、江戸時代からさまざまな変化を遂げてきました。今の若い世代、さらに次の世代が感動できる舞台をどうつくっていくか―僕たちが直面する大きな課題です」 父・富十郎は、武智鉄二(演出家・演劇評論家、1912~88)による「武智歌舞伎」に参加していた。実験的な演出で古典を現代に再生させる試みだった。「僕も武智歌舞伎のような試みに挑戦して勉強したいし、新作や能狂言の人たちとのコラボから得る刺激も大事にしたいと思います」と意欲的だ。 長期的な目標を尋ねると、「古典をしっかり演じられる役者になって、六代目富十郎を襲名することです」ときっぱり答えた。「それまでに、僕の目指す歌舞伎とは何か、自分なりの“答え”を見つけたい。そのためにも、若いうちはいろいろなことに挑戦していくつもりです」 11月には初の現代劇「有頂天家族」の主演が控える。人間に化けて京都で暮らすタヌキ一家の物語だ。もちろん、歌舞伎の舞台でも忙しい。12月には京都・南座の「吉例顔見世興行」に出演、若手役者の登竜門とされる年明けの「新春浅草歌舞伎」では、左近や中村橋之助、市川染五郎ら同世代との共演で切磋琢磨(せっさたくま)する。 仕舞で培った姿勢の良さ、よく通る声に切れのあるセリフ回し、踊りのうまさは、すでに大きな強みと魅力になっている。今後、本興行で経験を積み、どんな進化を遂げていくのか目が離せない。 写真提供=オフィスタカヤ 撮影=松田 忠雄
【Profile】
中村 鷹之資 本名・渡邊大。1999年4月、東京都生まれ。人間国宝・五代目中村富十郎の長男。学習院大学経済学部卒。2001年、中村大を名乗り初舞台。05年、「鞍馬山誉鷹(くらまやまほまれのわかたか)」で初代中村鷹之資を披露。 板倉 君枝(ニッポンドットコム) 出版社、新聞社勤務を経て、現在はニッポンドットコム編集部スタッフライター/エディター。