飛翔する若き歌舞伎役者・中村鷹之資:亡き父の背中を追い「新しいことに挑みつつ、古典歌舞伎を極めたい」
「三番叟」はもともと、五穀豊穣を祈願する狂言の神事舞。歌舞伎にも取り入れられ、顔見世興行や襲名披露など特別な舞台や慶事で踊る演目となっている。歌舞伎の音楽は三味線がベースだが、今回は能囃子(のうはやし)に合わせ、黒紋付き袴(はかま)でそれぞれが狂言と歌舞伎舞踊を演じた。その対比を観客に楽しんでもらう趣向だった。 「神に祈るために踊る。それが舞踊の起源です。裕基さんと三番叟を演じて、そのことを実感しました。歌舞伎でも品格の高い儀式的な踊りですが、化粧や舞台装置で演出されています。能楽ではそうした要素をそぎ落とし、もっと神聖で張りつめた空気があります。大地を目覚めさせ、そのエネルギーを感じながら舞うことが大事で、体の使い方も歌舞伎とは全然違う。共演を通じて、改めて民衆の芸能としての歌舞伎の立ち位置、見せ方がよく分かりました」
同会では、7歳年下の尾上左近と「棒しばり」も披露。こちらも狂言を基にした演目で、鷹之資は、主人から留守番の間に蔵の酒を盗み飲みしないようにと、腕を棒に縛られた召使の次郎冠者を演じた。左近演じる相棒の太郎冠者も後ろ手に縛られ、両手の動きを封じられながら、2人は協力して酒を飲む術を工夫し、酔いながら踊る。技巧を要するユーモラスな演目で、満場の観客を楽しませた。
新作歌舞伎は古典の入り口
昨年は「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」や「極付(きわめつけ)印度伝 マハーバーラタ戦記」「流白浪燦星(ルパン三世)」などの新作歌舞伎に相次いで出演した。 「新作を経験して、ますます古典歌舞伎の大切さを実感しました。基礎があるからこそ応用が利く。型あってこその“型破り”なのです。若いうちに、もっと古典を勉強して、型をしっかり身に付けなければなりません」 特に大きな話題を呼んだ「刀剣乱舞」は、アニメやミュージカルにもなった人気オンラインゲームを基にしている。名剣の付喪(つくも)神である「刀剣男子」たちが、歴史修正主義者たちと戦う物語で、鷹之資は主要な刀剣男子の1人「同田貫正国(どうだぬきまさくに)」と武士の松永久直の二役を演じ、新たな若いファンを獲得した。 「観客の半分以上が刀剣乱舞ファン。新作歌舞伎といっても、古典の手法をしっかり取り入れているので、どう受け止められるのか不安でした。でも、初日からお客様の反応は良く、食い入るように見てくれました。この舞台をきっかけに、(古典)歌舞伎に足を運んでくれた人がたくさんいます。今回の翔之會も、若い観客が一気に増えました」 新作歌舞伎は古典への入り口だと言う。「例えば、今の若い人にいきなり“忠義” “あだ討ち”を題材にした『仮名手本忠臣蔵』を見ていただいても、作品に共感しづらい。現代の価値観や感覚とは全く違うからです。だからこそ、まず新作を通じて歌舞伎に触れてもらい、古典につなげたい」 最初は物語やせりふがよく理解できなくても、「音楽、衣装、舞台装置、気になる役者など、何か一つでも面白いと感じたり、心に訴えたりするものがあれば、そこから自ずと興味が深まっていくはず。400年以上続いてきた芸能の魅力は、生の舞台に触れることで、年齢に関係なく伝わると確信しています」と力を込める。