飛翔する若き歌舞伎役者・中村鷹之資:亡き父の背中を追い「新しいことに挑みつつ、古典歌舞伎を極めたい」
「100日の稽古より1日の本番」
2013年、父の三回忌を機に、14歳で勉強会「翔之會」を始めた。以後、コロナ禍で中断したものの、ほぼ毎年開催し、今年で9回目を数える自主公演だ。 「本興行で演じる機会がまだ少ない中で、その時々の年齢で勉強しておきたい演目を(観客の前で)披露する目的です。“100日の稽古より1日の本番”という言葉があるように、稽古は大事ですが、本番で得られる経験値はとても大きい。勉強してきたことを実演する機会を設けたかった。父の得意だった演目や、古典(江戸歌舞伎)を中心に選んでいます」 7回目の2022年に踊った父の当たり役「船弁慶」は、「平家物語」などを題材にした能「船弁慶」を、歌舞伎舞踊化した作品だ。23年には歌舞伎座でも演じ、「足運びの美しさが印象的。体の隅々にまで緊張感が行き届いているのが好もしく、今後の成熟が楽しみ」と評された(2023年2月「東京新聞」評者:矢内賢二)。 最近になって、五代目は息子が芸を磨くための種をまいてくれていたと感じるそうだ。 父の勧めで、小学校1年生のころから、人間国宝だった観世流能楽師・片山幽雪に仕舞(しまい=能の見どころを抜き出した舞)を習い始めた。「父も、若い頃にお能の先生について、ひたすら真っすぐにすり足で歩く練習をしたそうです。でも、子どもの僕は、“能のお稽古嫌だな、なんでこんなことをしなくちゃならないのかな”と思っていました」 今では父に深く感謝し、現在も幽雪の長男・十世片山九郎右衛門に師事する。「歌舞伎舞踊でも足の運びは大事だし、(体の)軸も鍛えられました。でも、それだけではありません。歌舞伎の中には、もっと長い歴史を持つ能狂言から発展した演目があります。元を知ることで、歌舞伎ならではの魅力を再発見し、どう見せることが大事なのか分かってきた。父の意図もそこにあったのだと感じます」
狂言と歌舞伎のコラボ
8月中旬、東京・国立能楽堂で開催した第9回「翔之會」で、鷹之資は狂言師・野村裕基と「二人三番叟(ふたりさんばそう)」を舞った。九郎右衛門に紹介され、意気投合したという2人は、ともに1999年生まれ。新しいことに挑戦しつつ、古典芸能を継承していく覚悟を共有する同志だ。