借金50億、懲役370年ーー。「悪あがきして生きのびた」村西とおるが死にたい夜に考えていたこと
イヤらしいまなざしに救われた
思い込みが絶望を生んだが、情報が希望を与えた。1987年6月、村西は罰金15万5000ドル(約2200万円)を支払い、半年に及ぶ拘置所生活が終了。弁護士費用や撮影時の滞在費などを含め、計1億円の損失が発生した。裏を返せば、飛ぶ鳥を落とす勢いのクリスタル映像には資金力があった。 「皆さんがイヤらしいまなざしで、私の作品を見てくださったおかげです。AVも出演していただく女優さん、男優さん、スタッフがいて初めて成立する。自分一人でやれることなんて限りがありますよ」
裏切られることは避けて通れない
人間は、他者との関わりなしに生きることはできない。誰かに救われて希望を見いだすことがある一方、裏切られて絶望感に苛まれることもある。1988年4月28日、村西は17歳の少女をAVに出演させていたとして、児童福祉法違反の疑いで逮捕された。彼女は23歳の姉の身分証明書を見せ、年齢を偽っていた。 逮捕当日、『アサヒ芸能』の編集長が「今日は朝早くから監督の顔を見たいと思いまして」と事務所にやってきた。村西は同誌で連載を持っていたが突然の訪問に困惑した。 「なんかおかしいなと思ったら、5分後くらいにお巡りさんが数名いらっしゃいました。その時、編集長が『監督! こっち見て、Vサイン』とカメラを向けるんですよ。何のVサインだって(笑)。しょうがないから、Vサインしましたよ。こんなバカいないよね」 その写真は、次号に〈逮捕当日、本誌だけが撮えた 村西監督の懲りないVサイン!〉として掲載された。村西は完全に裏切られた。
「まあ、彼はジャーナリストですからね。警視庁にルートを持っていて、情報をつかんでいたんでしょう。別に、私は罠にハメられたわけではない。自分のまいた種だから、しょうがないですよ。その後もお付き合いしてます。魚心あれば水心ですから。今も『アサ芸』で連載しているし、新刊(『「全裸監督」の修羅場学』)も出しましたしね」 信頼関係があったはずの人間の卑怯な行動に失望しなかったのか。 「人生において、裏切られることは避けて通れないんだよね。日常的に起きることでしょ。逆に言えば、自分が人を裏切ったことを考えれば、裏切られたほうがいいですね」