「自宅では日本産米は食べません」東南アジアのコメ消費の現実、輸出戦略へ改めて考えるべきこと
輸出戦略に必要なこと
このようにマレーシアとタイの状況を見ていると、メディアが報じている「海外で日本料理が大人気なので、日本産米も売れている」と言うことではないようだ。少なくとも、マレーシア人やタイ人が家庭用に日本産米を買ってきて自宅で調理することはあまり期待できない。これは日本人がインド料理を好きでも、自宅でナンを焼く人が少ないのに、似ている。 ただし、マレーシアのスーパーマーケットでは日本産米は見かけなかった代わりに、米国、台湾、ベトナム産のジャポニカ米が売られていた。タイのスーパーマーケットでも、タイ産のジャポニカ米などが安価で売られている。 店頭の状況からジャポニカ米はある程度の人気はあるものの、日本産米が大人気とは言えないだろう。この原因として、23年、筆者が代表を務める日本農業サポート研究所がシンガポールで調査した結果が示すように、日本産米がどこの国のジャポニカ米より割高なことが大きいとは言えないだろうか。(「日本の農産物輸出は好調なのか?シンガポールの現実」) マレーシアもタイも在留邦人は一定数いるので、日本人による自宅用の日本産米消費は期待できるかもしれない。ただ、その市場は限られている。 では、タイには多く存在する日本食レストランなどの業務用には勝機があるのか。筆者もタイでは、今回紹介したレストラン以外の日本食レストランでもジャポニカ米を食べたが、色と硬さなどからどうも日本産米でなく、タイ産などのジャポニカ米ではないかと思うことがしばしばであった。ただし、タイ産ジャポニカ米は、日本産米と若干相違点があるにせよ、合格点をあげられる品質だった。外食用に日本産米を使うと料理の価格を上げてしまうことは容易に想像が付く。
今一度、立ち止まることの必要性
このように日本産米は、業務用では安価なタイ産、ベトナム産のジャポニカ米と競争しなければならない。高級日本料理店などの顧客が日本産米に対するこだわりがあり、高値もいとわない場合は、日本産米の勝算はあると思う。ただ、ここも市場は限られていると言える。 小売り用など家庭用でもレストランなど業務用でも、海外で日本産米を拡販するには価格などの困難が立ちはだかっているというのが筆者の率直な感想である。 こうした状況を踏まえ、日本国内でコメの生産者が急減し、需給バランスが不安定ななかで、国内消費ではなく「輸出すべき」状況なのだろうか? 農業関係者は、一度立ち止まって、熟考する必要があるのではないかと感じた今回の訪問だった。
福田浩一