市民に愛され半世紀…長崎・佐世保市の小料理屋が閉店へ 84歳女将の「尽きぬ感謝」と「心残り」
長崎県佐世保市の繁華街で半世紀にわたり愛されてきた小料理屋「むら」が、今月28日を最後に店をたたむ。常連客らが楽しみにしていたのは、新鮮な魚や野菜を使った「母の味」。惜しむ声は多いが、女将(おかみ)の萩尾妙子さん(84)の心は変わらない。「後ろ髪を引かれる思いですよ。でも、もう、体が利かなくなったから…。本当に良くしてもらいました」。感謝は尽きないという。 【写真】カウンターでほほ笑む女将の萩尾妙子さん 市内の別の場所にあった店を親戚(故人)が買い取ったのが50年以上前。それから数年後に店を手伝うようになり、下京町の今の場所に移って40年になる。 当時から料理のメニューもやり方も同じ。市場に足を運んで食材を選び、昼から仕込みを始める。午後5時の開店時刻には、煮しめ、きんぴらごぼう、アジの南蛮漬けなど、手を尽くした季節の和食がカウンターの大皿に並ぶ。 佐賀で生まれ、両親とともに佐世保へ。誰もが生きるのに懸命だった時代。養女に出された先で任された家の仕事はつらい記憶として刻まれている。 良い思い出もある。料理が上手な育ての母は優しく、料理のことをいろいろと教えてくれた。「母の味」が身に付いた。その昔ながらの味を若い世代も喜んでくれる。 親戚の店を手伝い始めたのは家計を支えるためだったが、夫が早世したことで、子どもたちを育て上げて結婚を見届けるのが生きる目的になった。 17年前からは長女が手伝う。長女が言う。「母が働く姿を見て、こうやって育ててくれたのだと分かった。私にとって、この店に来るのは宿命だったと思う」 今、孫やひ孫にも恵まれて幸せを感じている。人生の長い時間を過ごした空間を去るのに当たって、心残りがある。木のカウンターや空調機など使える調度品がたくさんあるのに、退去時にすべての撤去を求められている。「居抜き」で店を引き継ぐことに関心を示す人もいるが、まだ決定はしていない。誰かに活用してほしいと願う。 (重川英介) ◇ カウンター6席、テーブル席2部屋、座敷3部屋。関心のある人は、むら=0956(22)2826。