【南海トラフ地震は起きるのか①】プレート説は現代の「天動説」、まるで宗教…日本の地震学は50年を無駄にした
8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70~80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは? そして、本当に危ない地域はどこか? 全6回にわたって連載する。(JBpress) 【図】南海トラフ地震などの巨大地震は「プレートの移動」によって引き起こされると説明されてきた (*)本稿は『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)の一部を抜粋・再編集したものです。 (藤 和彦:元内閣官房内閣情報分析官) ■ 「プレート説」は真理なのか 地球の陸地の面積の0.5%を占めるに過ぎない日本では毎年、世界で起きる1割以上の地震が発生すると言われています。「地震大国日本」と呼ばれるゆえんです。 2024年元日、このことを改めて痛感する大地震が発生しました。1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登半島の地下16kmを震源とする「令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)」です。この大地震で日本全体が正月気分どころではなくなってしまったのは記憶に新しいところです。 死者数は318人(2024年7月23日時点)、被災地では現在も厳しい状況が続いています。 4月17日には豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が発生しました。 この地震の発生場所が南海トラフ巨大地震(南海トラフ地震)の想定震源域内だったことから、「超巨大地震の前兆ではないか」との声が上がりました。 これに対し、政府の地震調査委員会は「この地震は南海トラフ地震が起きることが想定されているプレート(岩板)の境界で起きたものではない。海側のプレート内部で断層がずれたことが原因だった」とした上で「この地震により南海トラフ地震の発生可能性が高まったとは言えない」と結論づけ、事態の沈静化に躍起になりました。 南海トラフ地震とは、日本で近い将来起きる可能性が極めて高いとされる超巨大地震のことです。 地震調査委員会の見解にもあったように、プレートの運動が地震を引き起こす原因だとされています。 地球の表面を覆うプレートの運動によって地球上の様々な現象を解き明かそうとする学説を「プレートテクトニクス」(以下、プレート説)と言います。「テクトニクス」とは「構造運動」という意味です。 プレート説によれば、地震はプレートによる衝突と、プレートの沈み込みによって起きるとされています。 「地球の表面には十数枚のプレートが存在し、地球内部の熱があふれ出す海嶺から生まれた重い海洋プレートが、年間数センチメートル単位で移動し、軽い大陸プレートを引きずり込みながら沈降し、海溝をつくった。沈み込む際に生じるひずみエネルギーが解放されることで地震が起こる」というものです。 文部省(現・文部科学省)が1970年の高校の学習指導要領を改訂(実施は1973年)して以来、地学の教科書では「プレートによって地震が起きる」と説明されています。学生時代にプレート説を習った記憶のある読者も多いことでしょう。 プレート説は原理が単純であり、視覚化しやすいという特徴があります。そのため、大きな地震が起こるたびに、新聞やテレビなどにプレート説を説明する図がたびたび登場します。 このような「刷り込み現象」が続いた結果、プレート説は地球科学の分野の原理の中でダントツの勢いで普及しました。ほとんどの日本人にとって今やプレート説は疑いようのない「真理」になっていると言っても過言ではありません。 しかし、はたしてそうでしょうか。