新谷仁美が“日本新記録V”後に語った秘話 圧巻優勝の裏に隠された大切な「約束」
新谷仁美が手にした本当の力
勘違いしてはいけない。おそらく、新谷仁美は2000mまでの佐藤のリードがなかったとしても、日本記録を更新していただろう。新谷が手にした本当の力。それは、佐藤の“気持ち”だった。新谷はレース後に語っている。 「彼女がイーブンペース(同じペース)で引っ張ってくれたおかげで、後半も大きくペースを落とすことなく、日本記録を出すことができました。どんなタイムでも良かったんです。彼女の引っ張るという気持ち・心意気が、私にとって救いになりました」 一度目の現役引退当初について、「極端な話、周り全部が敵と思っていた」「社会人になってから陸上が楽しくなくなり、人間の嫌なところ・ネガティブなところしか見ない人間になった」「自分が心を開かなかったから、信頼できる人もおらず、自分の味方と思える人がいなかった」と新谷は話している。それから、たった数年。新谷の周囲を取り巻く環境は、横田コーチなどとの出会いを通して、劇的に変わったのだ。 レース後の一連のインタビューで、彼女が最も温かい笑顔を浮かべた瞬間があった。「2大会ぶりのオリンピックで、以前の自分とここは違うと言えるのはどこか」と聞かれた瞬間である。 彼女はこう答えた。 「強い味方ができたことが、一番の要因かなと思います」 「私は1人でやっても平気だと思っていたし、それが当たり前だと思っていました。でも、自分が背負っているものを分散することで、これだけ気持ち的に軽く走れるんだなと、すごく感じています」 「私は本当にメンタルが弱い人間なので、それが焦りとなってレースに出ると、自分の走りができなくなる。でも今は、過去にはいなかった、それをカバーしてくれる信用・信頼できる人がいます。横田コーチだけでなく、今私にサポートしてくださっている方すべてが、信用・信頼している人たち。それがあるのとないのとでは本当に大違いだと、自分でも感じました」 孤高の存在だった新谷は人の優しさに触れ、より強くなった。32歳になった今、彼女もまた成長の途上にあるのだ。