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映画『MOTHER マザー』:大森立嗣監督が長澤まさみをシングルマザー役に描く「母と息子の歪んだ絆」

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nippon.com

松本 卓也(ニッポンドットコム)

大森立嗣監督の最新作『MOTHER マザー』は、実際に起きた少年の祖父母殺害事件から着想を得て、少年とその母親の歪んだ関係を濃密に描いた物語。自堕落な生活を送る母を長澤まさみが、母に翻弄される少年を新人の奥平大兼が演じる。またしても人間存在の深淵に鋭く切り込んだ大森監督に話を聞いた。

『タロウのバカ』からわずか1年で新作『MOTHER マザー』を世に送り出す大森立嗣監督。前作は25年以上前に初めて書いた脚本を映画化した思い入れの深い作品だったが、今回はそんな区切りを経て、新たなスタートという気持ちで臨んだのだろうか。 「そんな気分になるのかなと思ったら、実際はそうならなかったですね。割と間を置かずに仕事しちゃって。カメラマン(辻智彦)も同じだし、スタッフも重なる顔触れが多くて、『タロウ』の流れがそのまま生かせたところはありますね」 さらに今回も、物語の背景にはシングルマザーの育児放棄、学校に行けない子ども、といった前作と共通する要素がある。しかし監督によれば、「たまたま似ていただけ」。製作の経緯が前作と違って、企画と脚本のベースがすでにある状態で監督のオファーがあったという。 企画は、昨年公開の『新聞記者』、『宮本から君へ』と相次ぐ話題作を手掛けた映画会社スターサンズの河村光庸(みつのぶ)プロデューサー。2014年に17歳の少年が祖父母を殺害した事件を報じた新聞記事と出会い、当時から構想を温めていた。 孫が祖父母を殺害する事件は、ここ数年でもいくつかあるが、この事件をいっそう特異なものにしているのは、犯人の母親の存在だ。子どもを学校にも通わせずにそばに置きながら、育児は放棄し、男を連れ込み、働かずに浪費と借金を繰り返す生活を何年も続けた。息子に凶行をそそのかしたのも母親だった疑いがあると当時の記事には書かれている。

俳優が現場で感じることを大事に

この事件をヒントに、『宮本から君へ』の脚本を担当した港岳彦がストーリーを起こし、母親・秋子役に長澤まさみ、その内縁の夫役に阿部サダヲ、息子・周平役にはオーディションで選ばれた新人の奥平大兼を起用することで企画が進んでいった。 奇しくも前作『タロウのバカ』のYOSHIと同じ2003年生まれの新人に大役を任せることになった大森監督。撮影に入る3カ月ほど前、奥平に初めて会った印象をこう振り返る。 「テンションが高いYOSHIとは対照的で、奥平くんはいまどきのスマートな子なんですが、ちょっとボソボソしゃべるところがあって、人前に立つことに慣れていないような印象がありました」 演技に不慣れな奥平のために、撮影までに何度か稽古の時間を作り、現場に立てるところまで鍛え上げた。 「正直、大丈夫かなあと不安はありましたけど、逆に言うと、色がついていないところが一番の魅力。現場で感じることを大事にしろと、それだけは言い続けました。撮影が進むにつれて演技が楽しくなってきたと本人も言ってくれて。自分の中から湧き出るものをお芝居にしていく楽しさを知る、それが大事なんですよ。いい経験になったんじゃないかな」 一方、主演の長澤まさみは、大森監督が初めて一緒に仕事をする女優。「奥平くんに精一杯で、そこまで頭が回らなかった」と笑うが、もちろん20年のキャリアを持つ長澤への敬意と信頼があるからだ。監督はカットやスタッフワークなど、限られた撮影時間で効率よく運ぶよう、すべて細かく考えておいてから現場に臨む。いざ現場に入れば、次から次へとスピーディーに撮り進めるスタイルだ。その速さは長澤や阿部にも驚かれたという。 「俳優はロケ場所に初めて行って、最初はどこに立つかすら分からない状態ですよね。テストのときに説明して、彼らは少しずつ探りながら感じてくる。その部分が大事なんです。あとは迷わない。あまり考えていると、時間はどんどん経っちゃうので。何度も撮り直すなんてことはほとんどないです。俳優が感じたものを信頼していますから。俳優さんたちからすると、むしろその信頼が重くて大変かもしれないですね(笑)」 こうして、人物たちの存在感が際立ち、ライブ感に満ちた場面が連なる、大森監督独特の映像世界が生まれる。 「2時間くらいの尺の中で、全体をどう見せていくかということも一応は考えるんですけど、そればかりにとらわれちゃうと、うまくつながった、よくできた作品、というだけになってしまう気がするんです。それよりも、シーンの強さが感じられる作品であってほしい。そのシーンに俳優が何を感じているのか、それが表れるにはどう撮影すればいいのか、そこに頭を使いますね。それには、セリフをただ言っているだけではなく、その場で感じることが大事だと。全体の整合性よりも、人間に迫ろうとするものを撮りたい、物語とは別に、俳優がその場で反応して起こったことを撮りたい、という感覚は、僕が映画を作る中でずっと一貫していることだと思います」

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