現在公開中の映画『フェアウェル』をD姐が紐解く。
辛い真実と優しい嘘。大切な人のために選ぶべきなのは、どちらなのか? そんな究極の二択で対立する主人公と家族や親戚の物語が、現在公開中の『フェアウェル』だ。アジア系女性監督ルル・ワンと女優オークワフィナがタッグを組んだ感動作を、LA在住のD姐が紐解く。
笑う門には福来たるというが、嘘をつくことで来たる福がある。 2月に行われたアカデミー賞では、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画として初の最優秀作品賞など4部門を受賞するという偉業を成し遂げたが、その一方で昨年度はもう一つの素晴らしいアジア映画がアメリカで話題になっていた。これが本作『フェアウェル』である。 『フェアウェル』は製作費300万ドル(約3.3億円)といういわゆる低予算映画。2019年1月のサンダンス映画祭ドラマコンペティション部門でプレミア上映されると、米インディーズ系配給会社のA24が配給権を700万ドル(約7.7億円)で契約。6月に4館で劇場公開をスタートさせるが、口コミで映画の良さが評判となって伝わり、最終的には891館、2290万ドル(約25億円)の興行成績をあげるヒット作になったのだ。
映画初主演のオークワフィナは、ゴールデン・グローブ賞で初ノミネートされたばかりでなく、アジア系として映画部門初の最優秀主演女優賞(コメディ・ミュージカル部門)を受賞。アカデミー賞ノミネートは惜しくも叶わなかったが、「オークワフィナがノミネートから外れたのはおかしい」と落選を批判する声も上がるほどだった。
真実と優しい嘘、どちらが正しいのか。
NYに両親とともに暮らす中国系アメリカ人のビリーは、作家になることを夢見ていたが、応募していた学術奨励金制度の選考にも落選し、あまりパッとしない生活を送っている。そんなビリーは、最愛の祖母ナイナイに末期の肺がんが見つかり、余命数カ月と医師に宣告されたと知る。家族はナイナイに診察結果を隠し通すことを決意。 しかし、最後の思い出を作ろうとナイナイの住む中国・長春で、ビリーのいとこの結婚式を挙げることを口実に親戚が一同に介することを計画する。アメリカナイズされたビリーがナイナイに真実を告げてしまうのではないかと恐れた彼女の両親は、長春に来ないように言いつけるが、もちろんビリーはナイナイに会いに来てしまう。果たしてビリーや家族はナイナイに嘘を通しつけるのか、それが最善の選択なのか……。悩むビリーは、ナイナイと過ごすことで人生の大切さや希望を改めて思い直すこととなる。 『フェアウェル』とは”さよなら、お元気で”の意味から、アメリカでは送別会の意味で使われる。しかし、中国語のタイトルはズバリ『彼女に言わないで』だそうだが、最初の家族集合シーンから「これで嘘ついているの気がつかないはずないよね? もうバレてるよね?」という空気の連続で、この状況にいかに耐えながら最後まで観れるか映画かと思ったが、中国語タイトルを聞けばそんな空気に持ち込んでいたのも一種の演出だと納得がいく。