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安倍首相、実は理想の上司? 現場と世間の「空気」の違い(古市憲寿)

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デイリー新潮

 生放送にはトラブルがつきものだ。先日の「とくダネ!」でも小さな事件が起きた。CM明けにお天気コーナーが始まるというのに、気象予報士の天達武史さんがスタジオに現れないのだ。連絡もつかないという。慌てるスタッフ。結局、後半のコーナーで放送予定のカピバラのVTRを先に流すことになった。おそらく視聴者にもバタバタした様子が伝わってしまったと思う。

 カピバラのVTR中には天達さんもスタジオに到着し、無事にお天気コーナーが開始できることになった。そこで司会の小倉智昭さんがいつものように「アマタツ!」と呼び込むのだが、こんな言葉を添えていた。「私が天達と呼ぶべきところを、間違ってカピバラを呼んでしまいました」。冗談交じりに謝ったのだ。  お天気コーナーのドタバタに関して、小倉さんは全く悪くない。それでも司会者としてきちんと責任を負う。「自分の失敗は部下のせい、部下の手柄は自分のもの」という上司も多い中で、理想的なボスの姿と言えるではないか。  その様子を見ていて、悪名高いアベノマスクのことを思い出した。日本では内閣支持率が低迷しているが、きっかけの一つが布マスク配布だと言われている。  おそらく広報の仕方の問題だと思うが、とにかく「マスク2枚」は評判が悪かった。10万円の特別定額給付金を先に発表し、「おまけにマスクもつけておきました」と小さくアナウンスしていれば、これほどの批判は集まらなかったはずだ。ちなみにフランスでも全国民向けに布マスクを配布していたり、決して日本独自の政策ではない。ニューヨーク、ルクセンブルク、香港などでもマスクが配られている。  注目すべきは、安倍首相がきちんとアベノマスクを着用し続けていることだ。マスク配布を決めたのは「部下」であるはずなのに、何と言われようとマスクをつける。「いい上司」と言えなくもない。  ある男性弁護士がアベノマスクに関して「毎日、昭恵夫人が、外出もすることなく、かいがいしく、夫のマスクを洗濯しているのだろうか」とツイートし、古臭い女性観を露呈させていたが、実際には夫人ではなく、首相本人が毎日マスクを洗って干しているらしい。  身近な人に慕われているリーダーが、世間的に評判がいいとは限らない。有名人も同様で、現場のスタッフには好かれているのに好感度の低い人はたくさんいる。そういえば小倉さんも「嫌いな司会者」ランキングの常連だ。  支持率や好感度は「空気」の反映である。何か明確な基準があるわけではない。「悪名は無名に勝る」という言葉もあるように、ふとしたきっかけで「嫌い」は「好き」に反転するもの。最近では田中みな実さんが、鮮やかにアンチさえも味方にしてみせた。「空気」は本人の死後も変わり続ける。お札にまでなった聖徳太子だが、天皇家と敵対した蘇我氏に近かったということで、評価の低かった時代もある。2020年は未来からはどう見えるのだろうか。 古市憲寿(ふるいち・のりとし) 1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。 「週刊新潮」2020年7月16日号 掲載

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