習近平主席が突然の訪朝 歓迎ばかりではない中朝関係改善
厳しい日程の中での訪朝
北朝鮮は、直接的には米中両国の話し合いに入るのではありませんが、かつてトランプ大統領は北朝鮮を動かすために中国の力を借りようとしていました。いまでも、北朝鮮との非核化交渉を進めるため中国の役割に期待しているはずです。これは習主席にとって有利な材料なので、トランプ大統領と会談する前に北朝鮮で金正恩委員長と会い、中朝両国が緊密な関係にあることを印象付けようとしたのだと思います。 日程的には厳しい北朝鮮訪問でした。G20は訪朝の1週間後に開催されます。また、1週間前の13~14日には、習主席は上海協力機構の首脳会議に出席するため、キルギスの首都ビシケクを訪問していました。習主席としては、訪朝の時期をずらすことは可能だったでしょうが、G20での米国との交渉を見据え、あえてそうしなかったのだと思います。 一方、金委員長は、習主席の北朝鮮訪問で実現した首脳会談(金正恩氏と習近平氏との間で5回目)において、停滞している米国との非核化交渉について、特に「段階的非核化」について中国の支持を確認し、また、国連などから課されている制裁の緩和のため中国の力を借りようとしたものと思われます。
「借り」返した習近平主席
米国との関係を離れ、中国と北朝鮮の二国間関係でみてみると、金委員長は習主席の訪朝を温かく迎えました。25万人の平壌市民が通りを埋めて歓迎したといいます(中国国営「新華社通信」報道)。今回の習主席の訪朝により、両国の友好関係が増進したのは明らかですが、一皮むいてみると、状況はかなり複雑だったようです。 実は、習主席は金委員長に対し「借り」がありました。 中国と北朝鮮は、1950年に始まった「朝鮮戦争」で共に戦って以来、「血で固められた同盟」だといわれたくらい緊密な関係でした。そうであれば、習近平主席は就任後真っ先に北朝鮮を訪問してもよかったはずですが、実際にはそうしませんでした。それどころか2014年7月、習氏はこともあろうに韓国を訪問しました。朝鮮戦争の戦友であった北朝鮮よりも、敵方であった韓国を先に訪問したのです。これが習主席の金委員長に対する1回目の「借り」でした。 2回目の「借り」は、2018年に金正恩委員長とトランプ大統領の首脳会談に象徴される米朝関係の劇的な変化が起こって以来の問題でした。金委員長は今年の初めまでにすでに4回中国を訪問しましたが、習主席は1回も北朝鮮を訪問していなかったのです。 習主席の訪朝はこの借りを返す意味がありました。主権国家どうしの関係では平等であることが重視されるのです。中朝間の関係が完全に正常化されたと言えるか、必ずしもはっきりしませんが、両国は朝鮮戦争時のように「血の同盟」だと両国の報道が再び言うようになっていることは注目されます。 北朝鮮は関係の良くなった中国から経済面で協力を得たい考えです。金委員長は以前から北朝鮮の経済を発展させようと国内各地をまわって叱咤激励しています。そして、訪中するたびに中国の経済改革関連施設を見学しています。今回の首脳会談において政治問題と並んで経済面での協力が重要なテーマであったことは両国の報道からも明らかです。