第93回選抜高校野球 天理、24年ぶり4強/智弁、粘り届かず(その1) /奈良
<センバツ2021> 第93回選抜高校野球大会第9日の29日、準々決勝に臨んだ天理はエース・達孝太投手(3年)を打撃陣が援護、優勝候補の一角・仙台育英(宮城)の分厚い投手陣と強力打線を切り崩し、10―3で圧勝した。天理の4強入りは、1997年以来24年ぶり。準決勝は第10日第1試合(31日午前11時開始予定)で、決勝進出をかけ、東海大相模(神奈川)と対戦する。一方、智弁学園は明豊(大分)に4―6で惜敗。序盤に主導権を握られ、2点差まで追いつく粘りを見せたが、好機を生かせず、「日本一」の夢は夏に持ち越した。【広瀬晃子、林みづき】 ◇強豪・仙台育英に圧勝 この日も先制点を挙げたのは天理だった。一回裏1死から、木下和輔選手(3年)が四球で出塁すると、内藤大翔(やまと)選手(2年)、瀬千皓選手(3年)の連続適時打で2点を先制。瀬選手は六回裏にも適時二塁打を放ち、この日3安打3打点の大活躍を見せた。 一方、この日の達孝太投手(3年)は一回から連続で四死球を出すなど、立ち上がりが今一つ。三回裏には早くもピンチを迎える。先頭打者に本塁打を浴びると、次の打者にも安打を許し、2点が入って同点に。スタンドからは、相手走者がホームベースを踏んだ瞬間、「あー」「あかん」とため息が漏れた。 そんな重い空気を一掃したのは、初戦、2回戦ともに連続適時打を放った政所(まどころ)蒼太捕手(3年)だった。四回裏、二死満塁の好機に狙いを定め、この日も勝ち越しの適時打を放つ。次の内山陽斗主将(同)も二塁打で続き、この回、4点の追加点をもぎとった。政所捕手の母良子さん(40)は、3試合連続での活躍に「夢みたいで信じられない」と大喜び。女子マネジャーらもメガホンを大きくたたき、ジャンプしながら逆転を喜び合った。 五、六回にも2点ずつ加え、リードを広げる。五回裏、打者2人が空振り三振という状況で、二塁適時打を放ったのは、杉下海生(あおい)選手(3年)。初戦からの3試合を全てスタンドで観戦した祖母律子さん(75)は、「やっとヒットが出た。長生きしてよかった」と声を震わせた。15年前に亡くなった夫も高校野球の名門、徳島県立池田高で野球をしていたといい、「主人もきっと(私の)横で孫の姿を見てくれていると思う」と涙ぐんだ。 八回裏には守備の乱れを突かれ1点を返されるも、九回から達投手と交代した左腕、仲川一平投手(3年)がきっちりおさえて勝利を決め、スタンドは歓喜の渦に包まれた。仲川投手の2人の姉はマネジャーを務めた野球部OGで、いずれも甲子園経験者。下の姉で同志社大4年の理世さん(21)は、2017年夏に4強入り。「自分たちを超えるところまでいってほしい」と弟にエールを送った。 ◇智弁、粘り届かず エースの西村王雅投手(3年)が一回に明豊の先頭打者に本塁打を浴びるなど、五回表までに計5失点。一方、智弁打線は四回までに2安打と沈黙し、序盤は明豊に主導権を握られた。苦しい試合展開だったが、スタンドで応援していた福岡青空選手(同)は「全員で自分の仕事をしていれば、後半に勝負できる」とナインを信じ、真っすぐな目で懸命にエールを送った。 そして五回裏、智弁の猛追が始まった。「自分たちなら絶対に点を取り返せる」と、先頭打者の垪和(はが)拓海選手(3年)が中前打で出塁。スタンドでは父久雄さんがコーチを務める女子野球チームの選手らが手をたたいて喜んだ。その一人、田中心鳥さん(12)は「甲子園でヒットを打つなんてかっこいい。憧れです」。 2死二塁から三垣飛馬選手(3年)が、中前に今大会初安打を放って1点を返した。母ゆかりさん(49)は「本人も1本が欲しかったはず。これで少し気持ちが変わったんじゃないか」と頰を緩めた。 六回裏には1死満塁から垪和選手が四球を選び、押し出しで1点を加点。前川右京選手(3年)の遊ゴロの間にさらに1点を返し、2点差に追い上げた。 2死一、三塁と好機が続き、打席には主砲・山下陽輔主将(3年)。「絶対につなぐ」との一心でバットを振り抜くと、強い打球が左翼へ。長打になるかと思われたが、懸命に追いついた左翼手がフェンスに激突しながらも飛球をキャッチするファインプレーを見せ、追加点を絶たれた。 六回表から継投した小畠一心投手(3年)は六、七回を無失点に抑えたが、終盤の八回に3連打で1点を許し、3点差に。「あの1点がなければ……」。試合後、小畠投手は悔しがった。 八回裏には2死三塁から山下主将が意地の内野安打を放ち、再び2点差に詰め寄った。さらに満塁とし、同点の好機を迎えたが後が続かず、九回も攻撃を抑えられ、ゲームセット。猛追を見せたナインだったが、あと一歩及ばなかった。「甲子園は特別な舞台。夏は日本一になれるよう、必ず戻ってくる」と山下主将。激闘をたたえる惜しみない拍手が聖地に響いた。 ……………………………………………………………………………………………………… ▽準々決勝 仙台育英 002000010=3 20012200×=10 天理 明豊 102020010=6 000012010=4 智弁学園