(たぶん)まだ誰も調査していないM-1データ 第5回 歴代の決勝ネタでもっとも多く使われた締めフレーズは何か?
決勝を12月20日(日)に控えた「M-1グランプリ」を独自のデータで振り返る連載企画「(たぶん)まだ誰も調査していないM-1データ」。第1回では「歴代ファイナリストで掴みのスピードが最速だったのは誰か?」、第2回では「歴代でもっとも長い名前の出場者は誰か?」、第3回では「ラストイヤー時の年齢がもっとも高い芸人は誰か?」、第4回では「歴代ファイナリストの出身地・星座・干支・趣味・特技ランキング」を調査してきた。 最終回は「もうええわ」「いい加減にしろ」といった、ネタを締める際のフレーズ(=締めフレーズ)に注目。これまでに決勝で披露された183本のネタでもっとも多く使われた締めフレーズは何かをリサーチし、ランキングを作成した。使用している締めフレーズでファイナリストを分類した結果明らかになった興味深い現象も紹介する。 文 / 塚越嵩大 ■ ネタの締めフレーズ 採用回数ランキング 1位:もうええわ(104本) 2位:いい加減にしろ(24本) 3位:もういいよ(17本) 4位:やめさせてもらうわ(9本) 5位:いい加減にしろバカ!(3本) 6位:もういいぜ(2本) 7位:いい加減にしなさい / お席外させていただきます / いい加減なことなんてない ほか(各1本) 締めフレーズを集計した結果、関西勢は「もうええわ」「やめさせてもらうわ」、非関西勢は「いい加減にしろ」「もういいよ」を主に使用していることがわかった。この4パターンで全体の84%を占めており、残りの16%は独自のフレーズやイレギュラーな締め方だ。またツッコミ担当が関西弁を使っているコンビを「関西勢」、それ以外のコンビを「非関西勢」とし、使っている締めフレーズで分類していくと、意外な事実や興味深い現象が明らかになった。 □ 関西勢 「もうええわ」 フットボールアワー / アメリカザリガニ / キングコング / ますだおかだ / DonDokoDon / 笑い飯 / 千鳥 / 2丁拳銃 / 麒麟 / ブラックマヨネーズ / ザ・プラン9 / ライセンス / モンスターエンジン / NON STYLE / カナリア / ジャルジャル / 銀シャリ / スーパーマラドーナ / アキナ / 和牛 / とろサーモン / かまいたち / さや香 / ミキ / 見取り図 / ギャロップ / ゆにばーす / 霜降り明星 / ニューヨーク / ミルクボーイ / インディアンス 「やめさせてもらうわ」 りあるキッズ / アジアン / チュートリアル 「もうええわ」「やめさせてもらうわ」を使い分ける 中川家 / ハリガネロック / ダイアン 「これにて」 すゑひろがりず 締めフレーズを定めていない 変ホ長調 / さらば青春の光 2008年に「やめさせてもらうわ」が突如消えた 2001年から2007年まで、関西勢の締めフレーズは「もうええわ」が主流ではあるものの「やめさせてもらうわ」を使うコンビも毎年1組以上いた。しかし2008年大会では「やめさせてもらうわ」が一切使われておらず、そこから2019年までこのフレーズは二度と登場していない。なお2019年にはオズワルドが「やめさせてもらうわ」の標準語バージョン「いったんやめさせてもらいます」というセリフを使っている。 中川家とハリガネロックの締めフレーズ反転現象 「M-1グランプリ」の歴史上、決勝の1本目と2本目で明確に締めフレーズを変えたのは中川家、ハリガネロック、南海キャンディーズ、ぺこぱの4組のみ。2001年大会では、中川家が1本目を「もうええわ」、2本目を「やめさせてもらうわ」で締め、ハリガネロックが1本目を「やめさせてもらうわ」、2本目を「もうええわ」で締めるという反転現象が起きている。 □ 非関西勢 「いい加減にしろ」 スピードワゴン / アンタッチャブル / タカアンドトシ / 東京ダイナマイト / タイムマシーン3号 / ザブングル / ナイツ / U字工事 / オードリー / ハライチ / からし蓮根 「もういいよ」 ダイノジ / POISON GIRL BAND / 品川庄司 / トータルテンボス / ハリセンボン / スリムクラブ / ピース / トレンディエンジェル / マヂカルラブリー 「いい加減にしろバカ!」 パンクブーブー 「もういいぜ」 サンドウィッチマン 「バカこの!」 カミナリ 「お席外させていただきます」 相席スタート 「いったんやめさせてもらいます」 オズワルド 締めフレーズを定めていない おぎやはぎ / テツandトモ / 南海キャンディーズ / ザ・パンチ / メイプル超合金 / 馬鹿よ貴方は / トム・ブラウン / ぺこぱ ツッコミで終わらなかったコンビたち 「もうええわ」「やめさせてもらうわ」が大半を占めている関西勢と異なり、「いい加減にしろ」「もういいよ」以外の独自のフレーズが豊富なのが非関西勢。関西にはあまりない「ツッコまずにネタを終える」というスタイルを採用しているコンビもいる。「小木の好感度も上がったところで、このへんでネタを下げさせていただきます」と静かに締めたおぎやはぎ、「タマちゃんがたまにしか現れなかったのなんでだろう」と疑問を投げかけて終わったテツandトモ、“なかじMAX”を作ることに成功したから帰ると言い出したトム・ブラウン、「いい加減なことなんてない」と最後までボケを肯定し続けたぺこぱなどがその代表だ。なお関西勢で唯一ツッコまずにネタを終えたことがあるのがジャルジャル。2017年の「ピンポンパンゲーム」は、福徳が後藤の頭を撫でるという、ツッコミとは真逆の斬新な終わり方だった。 「バカ!」を言わなかったパンブー、1回だけ丁寧語になったナイツ パンクブーブーは「いい加減にしろバカ!」という締めフレーズで有名だが、大会初登場となった2009年の1本目には単に「いい加減にしろ!」と言っている。またナイツは基本的に「いい加減にしろ」でネタを締めているが、2009年だけは「いい加減にしなさい」と丁寧語でツッコんだ。このほか、ネタの内容によって定番の締めフレーズが変化することもあり、2001年大会の麒麟は「終わるかと思いきやネタを続ける」という川島のボケに対し、田村が「もうええ言うてんねん!」と念を押すようにツッコんでいる。 一発目のボケをどうするのかと同様、ネタの終え方も漫才師にとっては重要なテーマだ。今回の調査では、定番の締めフレーズを使い続けるコンビもいれば、斬新な締め方を模索しているコンビもおり、締めフレーズは各コンビの個性を形成する重要なファクターであることがわかった。2020年大会では各コンビがどのようにネタを締めるのか、ぜひ注目してみよう。