気候変動に取り組む五輪メダリストたち。雪不足で閉鎖相次ぐスキー場に危機感
ソチ五輪フリースタイルスキー女子ハーフパイプ銅メダルをはじめ、2度のW杯年間総合優勝、世界選手権優勝と、選手として頂点を極めた小野塚彩那さん。2018年にハーフパイプの選手を引退し、その後のキャリアを考えたとき、「生涯、自然と向き合うこと」は必然だった。 【全画像をみる】気候変動に取り組む五輪メダリストたち。雪不足で閉鎖相次ぐスキー場に危機感 2歳からスキーをはじめ、雪山に魅せられてきたからだ。 今はフリーライドスキーに転身し、整備されていない山を滑り続けている。そして、日々自然に身を置いているからこそ感じているのが、気候変動の影響だ。
冬季五輪が開催できるのは1都市のみに
「今、整備されたスキー場ではない、自然そのままのところに入って、自分の足で登って、滑り降りているから分かるんです。気温が暖かくなっている。雪不足でシーズンの始まりが遅くなっている」(小野塚さん) 2021~2022年は大雪が何度もニュースで注目されたが、近年日本は温暖化が進み、降雪量は減っている。日本の平均気温は、1898年以降では100年あたり約1.2度の割合で上昇し、1990年代以降は特に高温な年が頻繁に現れている。現状を超える温室効果ガスの削減策を取らなかった場合(4度上昇シナリオ)、日本の降雪量は21世紀末には、約70%も減少することが予測されている。パリ協定で定めた上昇温度を2度にとどめる目標が達成された場合でも、約30%の減少が見込まれている。 当然、雪の減少がウィンタースポーツに与える影響は大きい。カナダのウォータールー大学などの 研究 によると、これまで冬季オリンピックを開催した都市の気温は上昇し続けている。開催都市の2月の日中平均気温は1920~1950年代は0.4度だったが、1960~1990年代には3.1度、21世紀には6.3度と、大幅に上昇している。 さらに、現在の水準で温室効果ガスの排出が続いた場合、これまでに冬季オリンピックが開かれた21都市のうち、21世紀末でも適切な環境で五輪を開催できるのは、1都市のみ(札幌)になると結論付けている。 日本では既に雪不足が要因となり、長野冬季オリンピック会場となった飯綱高原スキー場をはじめ、全国のスキー場の閉鎖が続いている。スキー場・リゾートが経済の中核を担っている地域にとって、気候変動は生活の喫緊の課題だ。小野塚さんの地元、新潟・南魚沼市も例外ではない。 「プロスキーヤーの私も、雪が降らなければ仕事はなくなります。雪の減少は観光やアウトドア産業だけでなく、農業にも大きな影響を与えています。このような状況が続くと、今の子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんになった頃には、雪が降らなくなるかもと本当に危機感を持っています。“雪を滑るスキーという競技がオリンピックであったらしい”──、そんな風にならないように、できることを私たちの世代でやっていきたいです」