大物アーティストの「名古屋飛ばし」や市民の「名古屋離れ」が加速? ホール不足が問題に
中小含めホールは争奪戦
近年、特に問題なのはドームクラスの下の千人規模の施設。2008年に千種区の愛知厚生年金会館、2010年には昭和区の愛知県勤労会館が主に運営をめぐる問題で閉館、ここ数年では名古屋駅前の名鉄ホールや栄の中日劇場が再開発などを理由に幕を閉じました。昨年4月からは約1500人収容の大ホールを備える名古屋市公会堂が今年3月末までの改修工事に入り、地元の昭和区の成人式は今年、別会場で開催されました。こうして玉突き的に中小のホールが埋まっていき、その影響は一般市民の活動にも及んでいるのです。 「収容人数が1500~1800人程度のホールは、幼稚園の発表会などでも利用される人気の規模。最近では両親のみならず祖父母も鑑賞するケースが増加したことで、自前の施設ではキャパオーバーになる場合が多いようです。また、遠方の親族も参加しやすいように、地元の会場だけでなく駅からの交通アクセスが優れた会場が選ばれるようにもなりました」と担当者。 現在、一般市民にとって金銭的にも利用がしやすい公立のホールは市内に22会場あり、そのうち1000人以上収容できるのは4会場。中でも人気が高いのは日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館)。名古屋駅から南へ数駅で、JRや私鉄、地下鉄が乗り入れる金山総合駅から歩いて5分ほどのアクセスのよさで、催しが多い9月、10月は土日が常に埋まり、抽選の倍率が2桁になることも。抽選の申し込みは1年前から始まり、抽選日は公平性を確保するため、申込者が会場で自ら抽選機を回します。当選者からは歓声が上がることもあるそうです。
市民活動の「名古屋離れ」も
市内の幼稚園で働く職員は「年を追うごとに地元の会場を確保するのが難しくなっている」と感じています。争奪戦の末に会場の確保ができたとしても、リハーサル日が確保できないケースも。保育士たちは直前まで小道具の準備ができず、子どもたちはぶっつけ本番で舞台に立つことになります。そのため他の地域に会場を変更したり、時期をずらしたり、日程を分けたりして対応する園もあります。保護者からは「遠くてもライトやマイクが整った会場でやってほしい」「あまりに遠いと行くことができなくなってしまう」などさまざまな声が上がるそうです。 北区の中学校では昨年、秋の合唱コンクールを15キロほど離れた小牧市の会場で行いました。生徒はバスで30分ほどかけて移動、保護者は車や公共交通機関で見学に駆けつけました。生徒の1人は「立派な会場だったけど、早起きしなければならなかった」と思い返します。今年も同じ会場で開催することが決まったそうです。 2019年度は市内3施設が、老朽化と天井の脱落対策などで1年をかけて工事をする予定。できるだけ地域を分散させ、別会場の利用をしやすくするなどの配慮はしているそうです。施設を管理する名古屋市文化振興事業団も「まだ空き日程のある会場の情報を、できるだけ早く市民に伝えるようにしている」と話しますが、行政側のマネジメントが追いついていないようにも感じます。 このままでは大物アーティストの「名古屋飛ばし」が加速するばかりか、市民活動の「名古屋離れ」も進みかねない事態。ホールや劇場に足を運んだり、発表したりする習慣や文化をなくさないために、もっと知恵を出し合っていいのではないでしょうか。 (吉田尚弘/Newdra)