本当に始まった!自動車業界の激震パラダイムシフト
自動者業界のパラダイムシフトが目に見える形で本格化してきた。過去の歴史を振り返ると、破壊的イノベーションというのは初期段階ではまったく動きがないように見えるが、ある瞬間から突如として産業全体が一気に変化する。自動車業界は、とうとうそのフェーズに入った可能性が高い。(加谷 珪一:経済評論家) 【写真】中国でテスラの前に現れた意外すぎる強力ライバル、超低価格EV「宏光MINI」 ■ 業界が猛烈に動き始めた クリーンディーゼルなど、独自の内燃機関技術をウリにしてきたマツダが、初の量産型電気自動車(EV)「MX-30(EVモデル)」の国内販売を開始した。同モデルは2020年9月に欧州で先行販売していたが、日本でも脱炭素化が急ピッチで進む可能性が高まってきたことから市場投入を決断した。 日本メーカーとしては珍しくマツダは欧州市場に強く、世界販売台数の2割を欧州が占める。ところが欧州は世界でもっとも環境規制が厳しく、想像を超えるペースでEV化が進んでいる。特にEV化に積極的なノルウェーの場合、新車販売の50%以上がすでにEVとなっており、12月単月では何と67%がピュアEVだった。少なくとも欧州においては「今後、EV化が進む」のではなく「すでに、EV化が相当程度、進んでいる」という状況であり、内燃機関を搭載したモデルは急速に競争力を失いつつある(極寒のノルウェーでもピュアEVが急拡大しているという現実は注目に値する)。 マツダは、主戦場の1つである欧州市場において、自社が得意とする内燃機関の技術を生かせないというジレンマに直面しており、戦略の転換を迫られている。同社は2030年までに全車種を電動化するロードマップを掲げているが、EVはわずか5%で、残りはHV(ハイブリッド)などだった。マツダにとって欧州市場は生命線の1つであり、この目標は大幅に修正せざるを得ないだろう。
一方、いすゞ自動車は、主力製品であるトラックのディーゼルエンジンについて外部調達することを決断した。エンジンを米カミンズから購入することで、年間の研究開発費を削減。捻出した資金を電動車の開発に振り向ける。電動車の開発にはかなりの資金が必要だが、現行の内燃機関の開発と同時平行で進めるのは資金負担が重い。エンジンというトラックの中核部品を外部調達するのは思い切った決断だが、逆に言えば、そこまで事態が切迫していると見なすこともできる。 これまでEV化政策については欧州がもっとも積極的で、中国がそれに続き、日本は消極的というのが全体的な傾向だった。米国にはテスラなど先端的なEVメーカーが存在し、カリフォルニア州のように欧州以上に脱炭素に積極的な州がある一方、気候変動に関する報告書について「信じない」と断言していたトランプ前大統領の方針もあり、連邦政府レベルでは脱炭素政策はあまり進んでいなかった。 だが、バイデン氏が新大統領に就任したことで、状況が180度変わろうとしている。バイデン氏は就任早々、公有地での石油や天然ガスの掘削禁止や、洋上風力発電の倍増計画、化石燃料に対する補助金削減要請など、脱炭素に関連した大統領令を連発している。自動車産業にとって聖地となっていた米国市場において本格的な脱炭素シフトがスタートした影響は大きい。 ■ 全面EVシフトを表明したGM、ハイブリッドも製造せず すでに米国の自動車大手も本格的に戦略を転換しつつある。米ゼネラルモーターズ(GM)は2021年1月28日、2035年までにガソリン車の生産と販売をすべて廃止し、EVなど二酸化炭素を排出しない車種に切り換えるという驚くべき発表を行った。