「100点ワイン」はどう生まれるのか 著名評論家ジェームス・サックリングさんに聞く
連載《なぞときワイン》
ワインの値段や売れ行きを左右する要因の一つが、大きな影響力を持つ評論家が付ける点数だ。そんな評論家の一人、ジェームス・サックリングさんが、自身が高得点を付けた世界のワインを一堂に集めたイベントを日本で初開催した。著名評論家が高く評価するワインとはどんなものなのか。サックリングさんや生産者へのインタビューを交えて紹介する。 【写真を見る】約2000人のワイン愛好家が集まった、イベントの雰囲気やにぎわいはココからチェック! 2024年10月7日夕、東京・六本木のホテル、グランドハイアット東京で「Great Wines World Tokyo 2024」が開かれた。1万5000円という高額の入場料にもかかわらず、招待客を含めて約2000人のワイン愛好家が集い、世界を代表する高級ワインを堪能した。 アルゼンチンのワイナリー、エル・エネミーゴのブースに立ち寄ると、同ワイナリーのヘッドソムリエ、ホアキン・ディアスさんが、来場者が差し出したグラスに慣れた手つきで「グランエネミーゴ・グアルタジャリー2019」(インポーター直販サイト小売価格3万6300円)を注(つ)いでいた。
■100点満点で「200点のワイン」
同ワインは出品された約260本のワインの中で9本しかない100点満点の一つ。著名批評誌「ワイン・アドヴォケイト」が2013年ヴィンテージに南米産で初めて100点満点を与えたワインとしても知られる。ディアスさんは「だから200点ワインだ」と冗談めかして言いながら、筆者のグラスにも注いでくれた。
■アンデスの昼夜寒暖差が育むエレガントな赤ワイン
グアルタジャリーはアンデス山脈の麓、標高約1500メートルの高地に広がる地区の名前で、近年注目を浴びている新興ワイン産地の一つ。アルゼンチンワインというと、牛肉と合う濃厚な赤ワインのイメージがある。 しかし、同国では珍しいブドウ、カベルネ・フランを主体とするエル・エネミーゴの赤ワインは、高地特有の昼夜の寒暖差を表現したエレガントなスタイルで、より幅広い料理に合う印象だ。最近の世界市場のトレンドを反映したワインともいえる。
■英ワイン教育機関が開発した評価法
エル・エネミーゴも含め数十種類のワインを試飲したが、品種や産地が違えば、香りも味わいも全く違う。しかし、高得点ワインには何かしらの共通点があるはずだ。どんなワインが高得点を取るのか。イベントの前日にサックリングさんが宿泊するホテルを訪ね、じっくり聞いた。 ワインの評価方法は様々だが、よく使われるのは英国のワイン教育機関WSETが開発した評価方法。米国出身のサックリングさんも「評価はWSETが教える分析方法をベースにしている」と述べた。 具体的には「まず色を見て、香りをちょっと嗅いで欠陥臭がないか確認し、それから香りをじっくり嗅いで果実の成熟度合いをチェック。次に、口に含んで、ストラクチャー、タンニンの量や質、それら様々な要素がどう影響を及ぼし合って味わいに統一感を与えているかを舌の上で分析する。余韻の長さも重要なチェックポイント。そして最後に、総合的な印象を加味する」。 ストラクチャーとは分かりやすく言うと、ベタっとした平板な味わいでないこと。主に酸味やタンニンによってもたらされ、「ワインの立体感」と呼ぶこともある。高級ワインに不可欠の要素だ。