小さな町に年間350万人 !?“未来型”地方リゾート「VISON」の戦略
建設会社からリゾート開発へ~350万人集客の原点
立花は、「VISON」を作る以前、建設会社を経営していたという異色の経歴の持ち主だ。三重県の高校を卒業後、土木現場で働き、20歳で独立を果たした。若き立花が、年商15億円まで育てた会社は現在、後輩たちが経営を引き継いでいる。その「takac」代表・井上陵一さんによると、20代の立花は、好奇心の塊だったという。 「いろいろなことにチャレンジする方でした。新しいことにチャレンジするのが好き。情熱的なところは昔からありました」(井上さん) 三重・四日市市から車で30分ほどの距離にある菰野町に、建物のデザインが印象的なアクアイグニスがある。 年間100万人が訪れる、立花が手がけた施設だ。
源泉100%掛け流しの温泉宿として人気だが、ここでも最大の売りは美食の数々。スイーツ店「コンフィチュール アッシュ」は海外の大会で優勝経験のある籏雅典パティシエが手がけている。 また敷地内では温泉の熱を利用しイチゴを栽培。さまざまなおいしさで客を魅了している。 立花が手がける以前、ここは片岡温泉という名の寂しい温泉宿だった。 「引き継いだ時はお客さんが少なくなっていて、経営的には厳しい状態でした」(立花) 後継者がいなくなった片岡温泉の再建を立花が引き受けたのは30歳の時のこと。当時、立花に温泉宿へ客を呼びこむアイデアはなかった。そんな中、気になったのが宿で出していた食事。並んでいるのは、どこにでもありそうな魅力のない料理だった。 「インスタントや冷凍の料理しか出しておらず、お客さん目線で考えると、もっと山なら山らしい地域食材の料理が出たらいいのに、という発想でした」(立花) 立花はこれを改革のヒントにする。 「おいしいものが食べられる場所にこだわり抜けば足を運んでもらえるのでは」と、新たに建設した建物にこだわりの美食を取り揃え、アクアイグニスをヒットさせたのだ。 当時、そんなアクアイグニスの成功を聞きつけた人物が、同じ三重県の多気町の久保行央町長だった。 「賑わいのある観光・商業施設を頭の中に描いていたので、まさにアクアイグニスと。立花社長のおかげで、アクアイグニスから『VISON』というかたちになりました」(久保町長) 久保町長が立花を口説き、「VISON」建設のきっかけを作ったのだ。 立花は多気町にあった広大な私有地を購入。世界的に有名な美食の街、スペイン・サンセバスチャン市を「VISON」の目標に掲げた。 「やはり世界で実績のある街に学びたかった」(立花) 立花はスペインに通い詰め、2017年、多気町とサンセバスチャン市で友好提携を結ぶことに成功。食をキーワードにした街づくりを学ぶ一方、サンセバスチャンにある店「イスルン」を「VISON」に誘致。両国の人材交流も行い、美食リゾートを形にしていった。 今でも毎年のようにサンセバスチャン市とイベントを実施。世界的な美食リゾートを目指し、「VISON」の魅力を磨いている。