参加無料なのに日本酒やお米がもらえる「オンライン帰省イベント」 人口3千人の町の狙いとは〈dot.〉
新型コロナの影響で「帰省はオンラインで」と呼びかけられるようになって久しい。そんななか今年3月、福島県にある人口3千人あまりの町が、異例のオンライン帰省イベントを開いた。参加費は無料なのに、申し込むと約4千円相当の町の特産品が届くのだ。しかも、その町に何の縁もない人でも参加できるという。なぜこんなイベントを企画したのか。町の担当者に取材した。 【写真】町長とオンライントークの様子はこちら
* * * 福島県の会津地方にある「磐梯町」。全国的にも知られる「磐梯山」を擁するが、人口約3300人の小さな町だ。 その磐梯町が主催したのが、参加無料のオンライン帰省イベントだ。申し込むと、同町産の日本酒や米、ごはんのお供など数点の「磐梯の愛情コメコメ乾杯セット」(約4千円相当)が事前に自宅に届く。「帰省」と銘打つが、「コロナ禍において帰省や旅行を自粛している満20歳以上の方」なら、同町出身者でなくても参加できる。そのため、募集3日で定員は満席になった。 当日は磐梯町長による町の紹介や、参加者同士がZoomで顔を合わせながら、届いた日本酒で乾杯する一幕もあった。また、事前に各自が磐梯町産の米を炊いておいて、一緒におむすびをつくるワークショップも行われた。 参加者35組のうち磐梯町出身者はわずか3~4組。ほとんどが町とはゆかりがない人で、首都圏や関西圏をはじめ、北海道や鹿児島県からの参加者もいたという。 同町がこうしたイベントを行うのは、昨年8月に続き2回目だという。町と直接関係ない人たちに約4千円分もの特産品を無料で提供するのはなぜなのか。イベントを主催した町職員、五十嵐大輝さん(31)はこう話す。 「特産品を食べたり飲んだりすることで、これまで磐梯町を知らなかった人にも『第2の故郷』のように感じてほしいという思いから企画しました」 だが、真の狙いはそれだけではないと、五十嵐さんは言う。
「人口の少ない磐梯町は高齢化も進み、自治体の存続すら危うい状況です。そこで、少ない人口でも住民が豊かな生活を送れるよう、デジタル技術も取り入れて町を変革する『自治体DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革)』を昨年スタートさせました。町外に住みながら“複業”として町のDXにかかわってくれる“複業人材”を集めるのも、この企画の目的です」 デジタル化を担うシステムやセキュリティーの専門家を町内で探すのは難しい。そこで同町は、町外から人を集めることに力を入れている。同町ではすでに、町外のIT専門家やデザイナー、スタートアップ企業の経営者らを町の「デジタル変革審議会」「官民共創・複業・テレワーク審議会」の審議委員として招き、オンラインで審議会を実施している。自治体の審議会を完全にオンラインで行うのは、全国で初の試みだという。 「町外に住みながらも町おこしや仕事にかかわってくれる『関係人口』を増やすために、まずは磐梯町に興味を持ってくれる人を増やしたい。『モノで釣る』というわけではないですが、まずは何がきっかけであれ、磐梯町と接点を持ってもらえたら、と」 そう話す五十嵐さん自身も、東京都在住だ。中学卒業まで磐梯町で育ったが、進学とともに町を離れた。現在はフリーランスで企業のブランディングや広報の仕事をしながら、業務委託の磐梯町職員としてDXの推進役を担う。まさに「関係人口」の一人だ。SNSやYouTube、各種アプリなど、従来の役場職員だけでは扱いにくかったデジタルツールを使って、積極的に町の魅力を発信している。 今回のイベントは同町の官民共創拠点がある「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」(東京・渋谷)から配信し、3人のゲストが登場した。若者に日本酒の魅力を広める女性グループ「PON酒女子」代表の塚原彩衣さん、首都圏を中心におむすびのケータリングやイベント開催をしている「笑(わらい)むすび∞」代表の山田みきさん、進行役の渡部久美子さん。3人はいずれも同町に縁があるものの、都内在住で町の出身者ではない。これには“町外に住んでいても町に関わることができる”ということを参加者にアピールする狙いもあるという。