「事故物件」をあえて積極的に買い取り、販売する元トップ営業マンの挑戦
事件や自殺、孤独死などが発生した住宅(不動産)は「事故物件」と呼ばれ、忌み嫌われる存在だ。しかし、こうした物件を積極的に買い取り、「成仏不動産」と称して流通させる事業を行っている会社がある。その「成仏不動産」事業を運営する株式会社MARKSの花原浩二社長に取材してみた。(医療ジャーナリスト 木原洋美) 【この記事の画像を見る】 ● 自宅マンションで孤独死した 50代ビジネスマンに持病はなかった 2020年の暮れも押し迫ったある日、特殊清掃(事故物件の清掃)のための見積もりに付き従い、都内某所のマンションの孤独死が起きた部屋に立ち入った。亡くなったのは50代半ばの男性。8月の中旬に亡くなり、9月下旬に発見。遺体の傷みが酷かったため死因特定できず。室内に人が入るのは、警察による検視が行われて以来初めてとのことだった。 物々しい防護服に身を包み、入室。不動産会社の方々からは「怖くないですか」と心配されたが、筆者は東日本大震災の折、行方不明になった親類を探して遺体安置所めぐりをした経験があるので、不自然死の現場にはたぶんほかの人よりは「免疫」を持っている。異臭に関しても震災後、「遺体捜索は腐敗臭の強いところから」とのアドバイスを受けて探し回ったので、その時の記憶をなぞるように玄関先で呼吸してみた。冬の寒さに加え、清掃会社の方が私の入室前に換気してくれたお陰だろう、耐え難い臭いはしなかった。合掌し、一礼して歩みを進める。
「亡くなられていたのはこちらですね。ちょっと変わった現場です。普通はご遺体があった場所にだけ体液のシミができているのですが、2カ所にありますね」 清掃会社の方が説明してくれた。確かに変だ。 亡くなられた男性は、居間に簡易ベッドを置いて寝ていたと聞いたが、1つ目の人の背中ほどの大きさのシミはベッドの脇にあり、乾いた土のようになっていた。なんらかの理由でベッドから転がり落ち、そのまま亡くなったのだろうか。汗ジミとは明らかに違う赤黒いシミの上には無数の蛆虫がいる。そして2つ目のシミは、2メートルほど離れた場所。1つ目のシミより一回り大きく、まだ濡れていた。発見時、ご遺体はそのシミのところに倒れていたという。 「本当、不思議ですね。腐敗したご遺体がひとりで動くはずはないし、わざわざ動かす理由もわからない」 入室前、亡くなられた男性のお兄さん(70代)に話を聞いた際には、そんな話は全然していなかった。 「弟は、特に持病はなかったと思います。亡くなった理由は脳溢血とかですかね。とにかく突然で、寝耳に水でした。まだ若いのに」 憔悴しきった様子で、教えてくれた。 マンションは人気が高い私鉄沿線の閑静な住宅街にある。簡易ベッドの前には大きな机とハイスペックのデスクトップPC。メゾネットタイプの角部屋で、一人暮らしには十分過ぎる広さがあり見晴らしもよく、事故物件でさえなかったら、かなり居心地のよいスタイリッシュな空間だ。 男性はこの部屋で、直前まで元気に独身ライフを満喫し、仕事のメールなんかもしていたかもしれない。そして不測の事態に陥り、助けを呼ぶこともできないまま息絶えた。筆者や読者の周囲に普通にいる、独身でバリバリ仕事しているビジネスマンだったのだろう。 洒落たブランド物のジーンズが干しっぱなしになっており、いわゆる一般の人が抱くような「孤独死のイメージ」とはかけ離れた空間で、改めて、自宅が事故物件になるリスクはひとごとではないと感じた。