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医師数の格差、どう手当て 東京は新潟・岩手の1.9倍

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NIKKEI STYLE

2020年度から地方の医師不足を是正する新たな取り組みが始まった。都道府県ごとに必要な医師数の数値目標を立て、36年までの実現をめざす。地方の医師不足は長年の課題で、医師の派遣や定着を促す施策が多数講じられたが、都市部に医師が偏る傾向は続く。医師の呼び込みに一段の工夫が求められそうだ。 「なんとか帰ってくるきっかけが作れないか」。島根県江津市にある済生会江津総合病院は2019年、地域の診療所で開業医をしながら病院勤務医としても働ける環境を用意した。 「東京から一番遠いまち」とされる江津市の人口は約2万3千人で減少が進む。中沢芳夫院長は「常勤医師は14人で、かつての半分以下。医師を公募しても集まらない」と話す。 高齢化が進む地元の開業医の間では後継者不足の問題もあった。子どもが医師になっても都市部で働き、郷里に帰ってこない。最新の医療に携わる医師のキャリアが失われるとの懸念があるほか、親の診療所を継いでも収入を確保できる保証がないことなどが主な理由だ。 同病院と市医師会などが「江津メディカルネットワーク」を19年に設立。県知事認定の地域医療連携推進法人で、複数の病院や診療所を一体的に運営する。病院と診療所を兼務する雇用契約も可能だ。例えば、親の診療所を手伝いつつ、病院では最新機器を使って検査や治療にあたれる。中沢院長は「キャリアを捨てずに開業できる」と話す。 新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、まだこの仕組みを活用した医師確保は実現していないが、募集活動を続けるという。 地方の医師不足は04年に医学部卒業後の2年間の臨床研修が義務化され、深刻化した。研修先が大学病院以外の病院にも広がり、大学病院で研修を受ける医師が減少。大学医局に所属する医師も減り、医局を通じた地域の病院への医師派遣機能が縮小した。 厚生労働省は都市部に医師が集まる偏りが原因とみて、偏在是正に取り組む。18年に医療法と医師法を改正し、都道府県に医師確保計画の策定を求めた。医師偏在の度合いを示す指標として、患者の流出入などを考慮した人口10万人あたりの医師数を算出した。 都道府県単位でみると、医師数の下位3分の1が「医師少数」とされ、新潟や岩手、青森など16県が当てはまった。一方、東京、京都、福岡など上位3分の1にあたる16の都府県が「医師多数」とされた。もっとも少ない新潟・岩手は172.7人で、東京都の332.8人と倍近い差がある。この差を36年までに最小限に抑え込むのが目標だ。 都道府県をまたがる医師偏在の是正は容易ではなく、実効性を疑問視する声は根強い。医師多数と区分された地域でも「医師は足りない」との意見は根強い。 医師少数とされた千葉県では臨床研修医の受け入れを積極的に進める。08年に県や県医師会、大学病院が協力してNPO法人「千葉医師研修支援ネットワーク」を設立。3者が全県で連携できる体制を作った。 研修医を受け入れる36病院が研修プログラムを公開するなど情報発信に力を入れ、研修医の人数は設立当初の280人前後から「18年度に430人ほどまで増えた」(同ネットワークの石川広己常務理事)。 大学医学部で養成した医師に地域に残ってもらう取り組みも欠かせない。都道府県が医学生に奨学金を貸し、医師免許取得後も地域に残れば奨学金の返還を免除する「地域枠」の設定が代表例で、全国の医学部で導入されている。 岩手県は特に医師が少ない県北地域や沿岸地域の公的医療機関に、臨床研修後に2年間勤務することを条件とした地域枠の設定を始めた。21年度からこの条件での配置が始まる予定だ。 岩手、青森、福島、新潟、長野、静岡の6県知事は1月、「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」を発足させた。現在は12県知事からなり、今後、制度改革を国に要望する。岩手県の達増拓也知事は「都会の医師が地方に来て病院勤務にあたる制度を作ってもらいたい」と、県境を越えた偏在の是正措置を求めていた。 全国知事会などもこうした対応を求める要望を出している。厚労省は若手の医師に医師少数の地域で一定期間、勤務を義務付ける仕組みも検討する。職業選択の自由の観点から強制配置は困難だが、何らかの資格要件に追加するなどが想定される。改善が進まなければ、より強い措置を求める声が広がる可能性がある。 ◇  ◇  ◇

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