辰吉寿以輝に挑む男─今村和寛の闘い
4日後の6日、中谷潤人(M.T)の世界王座決定戦が行われる『ダイナミックグローブ』興行のセミファイナル(スーパーバンタム級8回戦)で、あの“浪速のジョー”こと辰吉丈一郎の次男で、日本同級8位の辰吉寿以輝(24歳=大阪帝拳)と対戦することになったサウスポー、今村和寛(28歳=本田フィットネス)。戦績は2戦2勝(1KO)と、プロではまだ駆け出しの選手で、かぎりなく無名に近い存在だが、この試合に“一発逆転”を賭けている。 本田会長(右)、福原トレーナーと。このタッグでアップセットを狙う
勘違いはしない。でも、引き立て役では終わらない
対戦相手の名前を知ったのは、遡ること9ヵ月前の2月。「よっしゃー。キター!!!」と、心が昂ぶると同時に「よく選んでくれたなって感謝の気持ちがあふれてきた」と振り返る。 昨年3月のB級(6回戦)デビュー戦で、いきなりメインイベンターを務め(相手選手側の興行だったが)、3回TKO勝利。2戦目は、“聖地”後楽園ホールへ颯爽と出向き、臆することなく積極的にグングン前に出る好戦的なスタイルで、最後まで上下左右と旺盛な手数で打ち勝ってみせた(3-0判定勝利)。この上ない“順風”の滑り出しを切ったが、3戦目にして早くも“ビッグマッチ”を迎える。そのうえ、辰吉は、人気、実力、ランキング、一般大衆をも惹きつける知名度と、欲しいもののすべてを持っている。世間的に見れば今村は“引き立て役”にすぎないが、本人や陣営、彼を支える周りの人たちにとってはもちろん違う。 「辰吉戦はビッグチャンス。おいしくないって言ったらウソになる」。 だが、「たまたま巡り合わせと環境が良くて、周りに盛り上げてもらっているだけであって……。だから、頑張ろうって思うんですよ。という反面、『勘違いすんなよ、オレ』という自分も常にいるんです」と、浮かれる気持ちはない。 「自分を知っている人からすると『あんなヤツがプロでやっても』という感じなんですよ」とも続けた。
大学では補欠の補欠だった
佐賀県鳥栖市出身。ボクシングとの出会いは小学5年生の時だったが、本格的に始めたのは高校生になってからだ。佐賀学園高校に通いながら、ボクシング部が存在し、県内では有数の結果を残していた鳥栖商業高校で、恩師の森田隆宏先生(当時、同校教員)に鍛えられた。その後、道筋をつけてもらい、名門・日本大学へ進学。アマチュア通算52戦32勝(10KO)20敗の実績をつくったが、その実、「やってやるぞ」と意気込んで入ったものの、大きな挫折を味わい続けてきたという。 関東大学ボクシングリーグ戦で、日大が5連覇を果たし隆盛を誇っていた時期に在籍。が、そのリーグ戦には4年間で1試合しか出たことがない。試合といえば、佐賀県代表として出場した国体がほとんどだった。 「大学で何もできなかった。使ってもらえない。ずっと補欠の補欠。ずっと合宿所では当番、掃除。誰かの2番手。試合に出られない。やっても負ける。4年間ずーっと」。 焦りと悔しさと失望を抱え、人知れず涙を流しながら、全国のボクシング部で一番キツいといわれる練習についていくのは、本当に辛かった。厳しい練習はもちろんのこと、礼儀・礼節・規律、先輩後輩の上下関係と、すべてにおいてだ。だが、どんなに苦しくても食らいついていって、途中で投げ出すことだけは考えなかった。