チェキで「100億経済圏」まわす地下アイドル業界の夢と実情…「推し」買い支える独特の収益構造
コロナ禍を機に急増。「辞めバンド」が一斉にアイドル業界へ
地下アイドル業界でチェキが大量消費される文化は最近始まったわけではない。ただ、コロナ禍以降、フィルム不足に拍車がかかっている節があると奏さんは話す。 コロナ禍では、音楽活動が制限され、多くのライブハウスが危機的状況に陥っていた。 なんとか音楽活動を再開できるようになった後も「密を避ける」社会的ムードが強かったこともあり、学生など年齢層が若いバンドファンの中には学校や家族から外出を止められるケースが目立った。 実はその中で関係者が目をつけたのが、アイドル業界だった。 アイドルのファンは、比較的自分自身で行動を決められる年齢層の高い社会人が多く、コロナ禍でもライブの集客が見込めた。 知見を生かしてアイドルの作詞・作曲や運営に回るバンド関係者が増え、アイドルグループ数が次々と増えていった。奏さんもその1人だという。 「10年前からバンドをやっていますが、当時、バンドをやっていた仲間たちとは、アイドルの現場で再会することが結構多いです。久しぶりに連絡を取ると、今はアイドルに楽曲提供をしているという人もいます。pipiaの運営や作曲家もそうです」(奏プロデューサー) ただ、アイドル数が増えても収益構造は大きくは変わっていない。チェキが収益の柱になっている以上、グループのメンバー数が多い方が運営としては収益性が高まることから一部ではグループの大型化も進み、チェキフィルム不足がさらに加速していった。
30箱単位で買っても足りない。転売価格で仕入れてギリギリ
チェキフィルムは1パックに10枚や20枚が入っているタイプが標準だ。家電量販店やドン・キホーテなどで購入できるが、入荷不足で購入制限をしている店舗も多い。富士フイルム公式オンラインショップ「フジフイルムモール」を見ても、2024年11月21日段階では「在庫なし」や「製品の供給が追い付かない状況であるため、ご注文の受付を一時停止しております」といった文字が並んでいた。 アイドル運営業者は、メルカリやAmazonで通常価格の1.5~2倍ほどで転売されているフィルムを購入したり、アイドルも含めた人海戦術で在庫がある店舗を探して購入したりと苦労は絶えないという。 富士フイルムによると、チェキの発売は1998年。カメラ本体の販売台数は累計で8000万台以上にのぼる。2023年度にはデバイス、フィルム、アクセサリーといった関連商品の合計で約1500億円の売り上げを記録、3期連続で過去最高売上を更新した。好調を受けて、2023年9月には、約45億円かけてフィルムの生産設備の増強を発表している。2025年度にこの設備がフル稼働することになれば、生産能力が2割向上する見込みだという。 ただ、現状のチェキ関連商品の売り上げの9割以上が海外。増強分のフィルムの出荷先について問い合わせたが、「それぞれの地域の需要に合わせて供給していきます」(富士フイルム・広報)との回答にとどまった。 ここまでで気になるのが、地下アイドル経済圏のビジネス規模の大きさだ。チェキが主要な収益源という特殊な構造のため、単純計算である程度、乱暴に見積もることはできそうだ。 ■アイドル1人あたりのチェキ会での年間売り上げ(推計) 1ライブあたりのチェキの売上:10枚 × 1500円 = 1万5000円 1年あたりのライブ日数:15日/1カ月 × 12カ月 = 180日 15000円 × 180日 = 約270万円/年 上記のように、大雑把にアイドル1人あたりの年間売り上げを約270万円と仮定した上で、過去の報道等から、都内・女性の地下アイドルグループを少なく見積もって1000グループと想定。1グループあたり5人程度だと仮定すると……。 チェキで試算した地下アイドル経済圏は、ざっと100億円規模にはなりそうだ。
三ツ村 崇志,上野翔碁