チェキで「100億経済圏」まわす地下アイドル業界の夢と実情…「推し」買い支える独特の収益構造
「月収のほとんどをチェキの売り上げで賄っているので、チェキ不足の現状が悩ましいです」 【全画像をみる】チェキで「100億経済圏」まわす地下アイドル業界の夢と実情…「推し」買い支える独特の収益構造 関東を中心に活動するインディーズ・ロックアイドルグループ『pipia』のプロデューサー奏(かなで)さんは、コロナ禍を経てチェキフィルムの入手が難しくなっていると語る。 Z世代を中心に人気の富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ(instax)」。都内の量販店では、品切れや点数制限の状態が続いている。外国人観光客による買い占めや転売を原因だとする報道もあるが、奏さんによると、アイドル業界の関係者によるチェキフィルムの争奪戦による影響も要因の一つになっているという。
収入の大半がチェキ。1日の売り上げがゼロのときも
奏さんがプロデュースするpipiaをはじめとしたいわゆる「地下アイドル」業界では、ライブ終わりにファンとチェキを撮影して交流する「特典会」があるのが一般的だ。実は、ほぼ毎日ライブを行う地下アイドルにとって、このチェキ撮影が大きな「収入源」となっている。 いわゆるライブミュージシャンの収入の軸は、一般的にライブのチケット収入とグッズ収入の2つ。 例えば、あるバンドがライブを開催した場合、チケット販売とライブの前後でファンが購入するタオルやTシャツ、CDといった物販の売り上げがバンド全体の売り上げだ。ここから会場の利用費やライブ会場から求められるチケットノルマ分が差し引かれた分が、ライブによるバンドの収益となる。これを原資に、バンドメンバーなどへの出演料(ギャラ)などが支払われるわけだ。 奏さんによると、地下アイドルも同じようにライブを開催しているが、その収益構造は大きく異なる。業界の慣習として、ライブ会場やイベント主催者からチケットノルマなどは課されない。代わりに、力のあるグループでない限り、いくらチケットが売れてもアイドル側には還元されないという。 その分収益源になっているのが、ライブ後に開かれる「特典会」と呼ばれるチェキの撮影会の売り上げというわけだ。 グループや所属事務所などによって差はあるものの、奏さんによるといわゆる地下アイドルの場合、収益の半分以上をチェキ撮影に依存していることが多く、中には収入の9割以上がチェキの売り上げで成り立っているグループもあるという。もちろん人気が出てメジャーになればギャラが出るようになり、チェキ会を開催しなくなるグループもあるがひと握りにすぎない。 特典会は時間が限られていることもあり、タイマーで時間を測りながらチェキを撮影。さらにその後、ファンはメンバーと少しだけ一対一で会話をする時間が取れる。 チェキ撮影1回あたりの価格は1500円前後。フィルム1枚の価格は100円程度だ。奏さんによると、チェキの売り上げの3~4割(1回の撮影が1500円の場合、500円程度)がアイドルに還元され、残りが運営の収益となる。アイドルは完全歩合制のため、撮影枚数が増えるほど手取りも増える。 ファンにとっては、チェキそのものが欲しいという思いよりも、「メンバーと交流できるチケット」「推しの生活を支えるツール」としての側面が強く、メンバーの数やライブの本数の多さに比例して、必要となるチェキフィルムが増えていく。 こうして、地下アイドルという独特のビジネスモデルの必然としてどれだけフィルムを買っても足りない状況が生まれることになった。