ウクライナの米製長距離兵器によるロシア攻撃、「エスカレーション」に該当しない理由
「無意味な」政策
バイデン政権は今年、米国製の戦術ミサイルシステム「ATACMS(アタクムス)」をウクライナに送ったが、ロシア領には発射しないという条件付きだった。 北大西洋条約機構(NATO)の軍備管理・軍縮・大量破壊兵器不拡散センターの元責任者ウィリアム・アルバーク氏はこの方針について、ほとんど意味をなさず、ロシアに多大な利益をもたらしたと述べた。 アルバーク氏はCNNに、ウクライナにATACMSを供与しながら、ロシアの占領下にあるウクライナの一部地域への攻撃のみを許可することで、「我々はロシアに『あの国境を数メートル越えるだけで家のように安全だ』というメッセージを送った」と指摘する。 事実上、この方針は「ロシアはウクライナのどこでも誰でも殺せるが、ウクライナは自分たちを実際に攻撃している部隊が国境を越えれば殺すことはできないという考え」につながった。この発想は「無意味」だとアルバーク氏は語った。 ウクライナの行動は武力紛争法の範囲内にとどまっている。ポーランドのシコルスキ外相が9月にCNNに語ったように、「侵略行為の被害者は、侵略者の領土でも自衛する権利がある」。
レッドラインの変化
先週の展開に対する懸念が示される中、ウクライナが長きにわたりロシア奥地の標的に国産ドローンを発射してきたこと、そしてロシアが自国領とみなす領土にすでに西側諸国の兵器を発射してきたことは忘れられがちだ。西側諸国のやや射程の長い兵器を発射するという決定は、程度の差であって、種類の差ではない。 ウクライナは1年以上にわたり、英国の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」で、ロシアが2014年以来占領しているクリミアを攻撃している。何カ月もの間、ウクライナは占領下にあるロシアの標的にATACMSを発射することを許可されてきた。法律により、ロシアはこれらの領土を自国領とみなしており、ウクライナが西側諸国の兵器でこれらの地域を攻撃した場合、悲惨な結果を招くと警告している。 米政府は5月以降、ウクライナが北東部ハルキウ州から国境を越えたロシアの標的を攻撃するために、より短距離の米国製ロケットを使用することも許可している。バイデン大統領がこの決定を承認する前に、プーチン氏は同様の核の脅しを持ち出し、この動きは「人口密度の高い小国」に「深刻な結果」をもたらす可能性があると警告した。しかし実際にはそうならなかった。 アルバーク氏は「我々は偽のレッドライン(越えてはならない一線)を越えても、実際には何も起こらないことを繰り返し証明している」と話す。それでも、こうした脅しは西側諸国がウクライナに自衛に必要な兵器を供与するのを阻止するのに十分だったという。 先週の展開を受けて脅威は再び高まっているが、アルバーク氏は、今回は本当に違うと疑う理由はほとんどないと指摘する。プーチン氏が長く望んでいたとみられるトランプ政権誕生の見通しは、ロシアが脅しを実行する可能性が通常よりもさらに低くなることを意味している。 「ロシアが突然、米国やNATO加盟国が実際に介入するリスクを招く、あるいはこの紛争に対する世界の姿勢を根本的に変える行動に出る(リスク)は比較的低い」(アルバーク氏) ◇ 本稿はCNNのクリスチャン・エドワーズ記者の分析記事です。