【特集】「息子の顔が見たい」出産前に視力を失った女性 世界初のiPS網膜細胞移植手術は「希望」
治療法がなかった重い目の難病の患者に対しiPS細胞を使った世界初の移植手術が2020年10月、神戸市の病院で実施されました。この研究の行方を特別な思いで見守る1人の女性がいます。女性はまだ息子の顔を見たことがありません。
息子の成長を「声」で感じる音楽家の女性
ピアノを弾きながら歌う女性。彼女は7年前に視力を失いました。目が見えていたときの記憶を辿りながら、ピアノを弾いています。 (音楽家 前川裕美さん) 「毎回ドキドキしながら弾いておりまして、見えていたときのほうがアレンジを加えられたり、華やかな演奏ができましたね。」 兵庫県宝塚市の音楽家・前川裕美さん(42)。目の難病「網膜色素変性症」を患っています。 (前川裕美さん) 「(Qどのくらい見えている?)お顔は全く見えなくて。部屋の明かりもついているのかついていないのか、わからない。」
前川さんは家族3人で暮らしています。夫の雅亮さん(40)。そして、1人息子で小学1年の奏羽君です。前川さんは奏羽君の声を聞いて成長を感じています。
(前川裕美さん) 「『あなたの目は網膜色素変性症という病気で、この病気は今のところ治療法がないです』と言われて。とどめと言ったらいいのか、『いつか失明するかもしれない。そういう場合もありますよ。』と言われて。とにかく言われたこと、ひとつひとつが大きすぎて。」 網膜色素変性症は、光を感じる網膜の視細胞が徐々に失われる遺伝性の難病です。視野が次第に狭まり、前川さんのように失明することもあります。国内に3万人前後の患者がいるとされていますが、今は根本的な治療法がありません。
歳を重ねるにつれて、病気が進行し、人や物が見えにくくなっても、音楽を支えにしてきました。大学はアメリカの名門「バークリー音楽大学」に進み、作曲や声楽を学びました。