テレビ出演も…待ち受けていた地獄 元ギャル女将が挑戦を続けられる理由とは
2021年秋、クリエイター向けサイトnoteで『埼玉のギャルが大赤字の老舗和菓子屋に入社した話』という記事が話題になった。この記事を書いたのは、埼玉県桶川市で135年続く和菓子店『五穀祭菓をかの』を継ぎ、6代目女将として奮闘する榊萌美さんだ。 【写真】テレビに取り上げられヒットした『葛きゃんでぃ』 学生時代はギャルだったという萌美さんだが、子どもの頃から一貫して持ち続けた「誰かの役に立ちたい」という思いを原動力に、大赤字が続いていた『をかの』を2年連続で黒字化することに成功した。今回、そんな萌美さんを取材し、黒字化までのエピソードや今後予定している新商品について話を聞いた。
元ギャルが「家業を継ぐ」と決めたワケ
取材の中で、萌美さんが何度も語っていたことがある。それは「誰かの役に立つことが自分の喜び」ということだ。 小学生のとき、図画工作で必要な材料を家から大量に持ってきては、友達にあげて、作品が完成するのを喜んでいた。自分の存在が誰かの人生をより良くするきっかけになる。そのことが、萌美さんの原動力なのだという。 「ブランド物や良い車など、物欲で頑張ることができないタイプなんです。『あなたがいてくれてよかった』と言われるような人になりたいなと、ずっと思っていました」 高校生でギャルになってからも、心の底では「誰かの役に立ちたい」と思い続けた。教師になろうと大学に進学するも、教育現場が肌に合わないことに気がつき、夢を断念。地元で友達の母親と話したことをきっかけに、忘れていた地元の商店街や家業への思いに気づき、実家の和菓子店を継ぐことに決めた。 「地元の商店街が大好きな子どもで、いろんなお店に顔を出しては、孫や子どものように可愛がってもらいました。教師への道を諦めた後で、地元のお客さんや商店街の人たちのためなら、自分の人生をかけてもいいなと思えたんです。それで、6代目女将として家業を継ぐことに決めました」
手ばなしで喜べなかった1年目の黒字
萌美さんは大赤字が続いていた家業を立て直し、2年連続の黒字化に成功している。しかし、順風満帆で黒字を達成できたわけではない。そこには自分自身のふがいなさに気がつき、理想の状態に近づくために、目の前のことに真剣に向き合ってきた萌美さんの姿があった。 「1年目の黒字は『葛きゃんでぃ』をテレビに取り上げてもらい、運よく達成したものでした。本来なら喜ばしいことですが、うちの場合は量産体制を整えていなかったために、売上が伸びて地獄を見てしまったんです。何時間働いても商品を作り終わらず、そのせいでお客様への納品が遅れてしまう。急に負荷が増えた従業員が3人も辞めてしまうし、お客様からのクレームも止まらず、『をかの』の評判も悪化してしまって、当時は負のスパイラルから抜け出すことができませんでした」 従業員と顧客が幸せになるような、最良の形で黒字化できなかったと悔やむ萌美さんは、当時のことを「本気度が足りなかった」と振り返る。 家業に対して本気で向き合う覚悟ができたのは、父親の友人から投げかけられた言葉がきっかけだった。 「ある日、『葛きゃんでぃ』の反響で崩壊しつつある店の状況を見た父の友人から『これでお父さんが倒れたら、お前のせいだからな』と言われたんです。経営に関する勉強不足も指摘されて。その言葉にはっとして、本気で変わらなければいけないと思いました」 人の役に立つことがしたかったのに、理想からは程遠いことに気がついた萌美さん。次は客も従業員も、そして家族も、関わるすべての人を幸せにできるようになりたいと思ったことで、自分自身のスキル不足を認め、商品開発や知識の習得に時間を割くようになった。