中国で奪われた“自由” 故郷捨て外国に逃れる若者が増加 一方で残る決断も…「自由の代償は監獄行き」
■移住しても安心できないワケ 暗躍する“秘密警察”
今回、私は中国から日本に移り住んだ何人もの若者と出会うことができたが、皆、日本に来た後も、中国当局の圧力をひしひしと感じていた。 ある女性の家族の元には「あなたの子供は最近、海外にいるのか」と当局から電話があったという。私が取材した時期と重なる。また別の男性は、SNS上で政権を批判した直後に、中国当局とみられる人物から電話がかかってきたと明らかにした。彼らは、自分たちの日本での行動も見張られているのではないかと、強く警戒する。 23年には、アメリカで中国の民主活動家を監視するため「秘密警察署」を運営した疑いで、アメリカの司法当局が中国系の男らを逮捕した。スペインの人権団体は、欧米や日本など50を超える国に、合計100か所以上の拠点があるとの調査結果を報告した。東京・秋葉原にも「秘密警察の拠点」と指摘される建物が存在するが、実態はよくわかっていない。 中国政府は、秘密警察の存在を否定している。
■自由の代償は「監獄行き」 若者が語れない本音
中国国内では、X(旧Twitter)やインスタグラムなどにアクセスする時に、VPN(仮想プライベートネットワーク)を利用している。中国のSNSでは、当局の意に沿わない意見を投稿するとすぐアカウントをブロックされるか当局にマークされるため、自由な考えを発信するには、こうした場を利用するしかない。 中国の若者たちは不自由を感じていないのか。「白紙デモ」の熱気は本当に消えてなくなったのか。本当のところはどう思っているのか。北京の若者に人気の散歩スポットで聞いてみた。 「日本や韓国は、バラエティー番組で首相のモノマネができたり、ニュース番組の街録で政府をやゆしたりできる。中国でそれをやれば監獄行きだ」 「政府に抗議すれば、鎮圧されないわけがない。私たちは洞窟の中で暮らしているようなもの。自分の本当の気持ちと周囲の環境、政治状況をゆっくり擦り合わせる。自由をあきらめることも重要なのだ」 自由をあきらめるのも大事…。自分の気持ちに踏ん切りをつけるかのような声が強く、印象に残った。一方で、母国を去るという選択肢に、懐疑的な声もあった。 「他の国に行っても、何もかも100%共感してもらえるわけじゃない。簡単に『自分の国が悪い、他国の方が良い』と判断するのは、おかしい。意見を持ったり意見を伝えたりすることは重要だが、自分の国を恨んではいけない。自分の人生を犠牲にする必要はないよ」 確かに、中国から日本など海外に移り住んだとしても、故郷を離れる覚悟とは比にならないほどの困難も、待ち受けるだろう。 今回出会えた、日本での生活を選択した若者たちに、こう尋ねた。中国に戻りたくないのか? それとも戻れないのか? 皆、一様に複雑な表情を見せた。大粒の涙を流しながら語ってくれた男性の言葉が忘れられない。 「あの国はおかしくなっている。でも悔しいことに、そんな国も“生まれ育った祖国・故郷”なんだ…」 2024年、この国を覆う閉塞感(へいそくかん)に変化の兆しはあるのだろうか。