元バレー選手大林素子、「デカい女は無理」一度あきらめた女優の夢を掴むまで
他人から無理だろうと言われて無理だと思ったら終わり
常に前向きに自らアクションを起こし、幼き日の夢の実現に情熱を燃やす大林だが、そうした行動を元トップアスリートとしてのプライドが邪魔をすることはなかったのか? 「はじめは誰も私のことを女優とは思っていなかったでしょうし、期待もしていなかったでしょうし、『バレーボール選手なのに芝居がデキるの?』とか、レッテルを張られてしまうのがすごく悔しかったです。でも、お芝居はずっとやりたかったことですし、挑戦しないまま死ぬのは嫌なので、とにかく自分から一つひとつ挑戦していこうと。それに、何歳からでもやりたいことはできると思うので」 そのうえで、こう続ける。 「他人から無理だろうと言われて、自分で無理だと思ったらその時点で終わりなので。選手時代もそうでした。ロシアとか強い相手と戦う時、どうせ無理だと思ったらまず勝てないですからね。どんな相手に対しても常に勝ちにいっていましたし、鍛えられた部分は大きいと思います」 自ら行動を起こし、挑戦を続けることで女優としてのキャリアを積み、その才能を知らしめた大林は、今では年間に3~4本の舞台に出演。 15年には「母をたずねて三千里~マルコ~」でミュージカル作品にも初出演を果たすなど、活躍の場を広げている。
転機となった「特攻隊」を描いた舞台
そんな女優・大林素子にとって転機となったのが、39歳の時、劇団をやっている知人の芝居を観劇後、演出家に「私も出させてください」と直訴したことがキッカケで生まれた主演舞台「MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~」という。 大東亜戦争の末期、特攻隊の出撃地となった鹿児島県の知覧飛行場にある「富屋食堂」を舞台に、若き特攻隊員たちから母親のように慕われ、戦後には米兵の世話もした食堂の経営者・鳥濱トメさんの自伝をもとにした作品で、初演から今年で9年目を迎える。 「この作品は、私もトメさんのお孫さんに直接お話を伺ったり、立ち上げのときから携わっていて。私自身も作品とともに成長できている部分があるし、作品への思いや身長の大きさを愛情に変えて1年1年続けていて、自分のライフワークでもあります」 「戦争」という重いテーマを描いているが、「これまで戦争を知らない私たちの世代が平和で幸せな時代を送って来られたのは、やはり彼ら(特攻隊)がいたからこそ。お父さんお母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、そこから生き残った人たちの命が代々私たちに繋がれているので。戦中だけでなく、戦後も描いているこの作品が、平和の意味をもっと考えるキッカケになればうれしいですし、当たり前のような日常に心から感謝し、今をもっと頑張れるようになると思います」と真っ直ぐな瞳で力強く語る。 “今”を精一杯生きる大林の原点が、そこにあるのかもしれない。 (文・平田昇二) 舞台「アース製薬presents戦後72年を飛び越えて『MOTHER マザー~特攻の母 鳥濱トメ物語~』」10月5日~9日(新国立劇場・小劇場)、同月18日(静岡市清水文化会館)、同月21日(岐阜・不二羽島文化センター)で公演が行われる。