労働者の心身をむしばむパワハラ ── 黙認されやすい「精神的な攻撃」
見えにくいパワハラ
厚生労働省が分類するパワハラのなかでも「過小な要求」「人間関係からの切り離し」といったパワハラは、「身体的な攻撃」や「言葉の暴力」ほどは目立たない。しかし、最終的に労働者を精神的に追い込んでしまう点では、ほかのパワハラと何ら変わりがない。いまだ傷が癒えない労働者は多くいる。 本来注力すべき仕事よりも、意味のない仕事を何時間もやらされたのは、東京で暮らしている35歳の保育士の男性だ。 20代だった当時、無認可保育所で勤務していた。仕事を教えてくれなかったにもかかわらず、ダメ出しを受け続けた。そして、この保育所は、失敗の際の改善案を、何時間も提出させ続けた。 この保育士が受けたパワハラは、「賽(さい)の河原」のようなものだ。「賽の河原」とは、三途の川のほとりにある河原で、供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとするが、積み上げたとたん、鬼にくずされる。無駄な努力を何時間にもわたって続けさせる。 男性は「年齢のわりに能力が低い」とまで言われた。残業が多く、ボーナスもない。1日休んだら仮病を疑われ、担任を外されて退職を促された。その際の扱いは、自己都合退職だった。20人いない職場で、年に3~4人が辞めていった。 現在は北陸地方で飲食関係の仕事をしている41歳の男性は、90年代後半に運輸関連の仕事に就いていた。会社の愚痴を同僚とメールでやりとりしていたことが漏れ、そこからパワハラが始まったという。急に仕事を干され、なにもすることがなくなり、一日中事務所に座っていることになり、いたたまれなくなった。 上司からは「懲戒免職になるところは始末書ですんだのだからよかったと思え」と言われた。その時代を引きずって、いまもなお抗うつ剤を飲んでいる。 次回は、パワハラ問題に詳しい識者にインタビューし、その解決策を探っていく。 (ライター・小林拓矢)