“牛丼一筋”“券売機は拒否”だった吉野家が「タブレット注文のカレー専門店」開店 変化が示す「日本の外食」のゆくえ
「券売機を置かないことで大事にしたいこと」
日本人にとって身近な「牛丼チェーン」の歩みは、日本の食の歴史や時代性をあらわしているといえるかもしれない。消費経済アナリストの渡辺広明氏が、吉野家が始めた「カレー専門店」からその変遷を読み解いた。 【写真】「もう~とりこ」のカレーライス&松屋の「生パスタ」 ほか ***
東京・台東区に吉野家の新業態「カレー専門店 もう~とりこ」が、12月1日にオープンした。吉野家の運営らしく、ビーフカレーがメインメニューだ。 早速、浅草中央店を訪問した。土曜日の14時というランチタイム後の時間帯にも関わらず、店内は満員。ルーは「ビーフカレー」「スパイシービーフカレー」「バタービーフカレー」の3種類から選択でき、基本のカレーは税抜き780円から。 私はせっかくなので、にんにくの利いた肉野菜炒めと生卵が乗ったスペシャルメニュー「スタミナビーフカレー」(1,280円)を註文したが、とてもおいしかった。サイドメニューに「ラッシー」(200円)があるというのも、吉野家の他業態にはない「らしさ」だ。こちらもあっさりしていて、また飲みたくなる味だった。 店内はダウンライトを配した鏡張りという、われわれの知っている吉野家の雰囲気とはだいぶ異なる。店頭やメニューを見ただけでは、吉野家が経営してると気づく人はほとんどいないだろう。 注文の仕方も、卓上のタブレットでセットやトッピングを選べる今風の仕様だった。牛丼の吉野家でもセルフ系のお店は増えているが、もともと同社は顧客とのコミュニケーションを重視する企業文化で、頑なに券売機を導入しなかったのは有名だ。過去には“ミスター牛丼”こと安部修仁社長が、 「券売機を置かないことで大事にしたいことがあるんですよ」 と、店員が注文を尋ねることや会計で生まれる接客を大事にしたい旨を語っていた。 (「プレジデント」2007年10月01日号)。しかし、昨今の人手不足を前にしてみれば、そんなこだわりも今や昔のことである。