錦織は鬼門のクレーシーズンを乗り越えられるか?
昨年は、バルセロナでクレー初のツアー優勝、続くマドリードでマスターズシリーズ初の決勝進出、とクレーで大きく飛躍したが、絶好調のクレーシーズンはマドリードでのナダルとの決勝戦で暗転。タフな連戦の影響で腰を痛め、最終セット途中棄権という悔しい逆転負けを喫した。さらにその後予定していたローマ・マスターズを欠場し、練習も実戦も不足したまま臨んだ全仏オープンは、本人も「この状態で勝てる相手ではなかった。しかたない」とあきらめるしかない試合内容での1回戦敗退だった。 しかし前半戦の成功に注目すれば、17歳で全仏オープンを制したマイケル・チャン・コーチの指導の下、ショットの精度を高め、綿密な戦術を立てた成果が大きいことがうかがえる。同時に、早いタイミングでボールをとらえるスピーディなテニスをクレーでも貫いているところで、錦織のオリジナリティがあふれていた。マドリードで、クレー巧者のダビド・フェレールを準決勝で破り、決勝で〈クレーの王様〉ラファエル・ナダルを6-2 4-2まで追い詰めたという事実は、クレーでのプレー自体に何の迷いもない証拠だ。だからこそ全仏オープンまで走り抜けなかった失意は大きい。 クレーは依然として〈鬼門〉であるが、今やその課題は、ケガをしないことという一点に絞られるといっていい。この時期に健康な体を維持し、クレーシーズンの最高峰である全仏オープンをベストの状態で戦いきるということが、トップ5の仲間入りをした今年はこれまで以上に大切なテーマだろう。 そんな錦織にとって、昨年のマドリード決勝での途中棄権以来、大きなケガをしていないという事実は、特別な自信になっているに違いない。昨夏、足の親指にできた嚢胞を摘出した手術で戦列を離れたが、あれはスポーツでいう〈ケガ〉とは異質のものであり、錦織が長い間課題にしてきたフィジカルの問題とは別に扱うべきだ。それ以外には、連戦による疲労や痛みを抱えたことはあっても〈ケガ〉にまで発展していない。