大衆なき地方創生、コロナ禍でも強さを発揮する「ニセコ経済」
海外富裕層の「投資」が経済を牽引
北海道のスキーリゾート地「ニセコ」の、「外国人による外国人のための楽園」化が進んでいるらしい。 琵琶湖畔にあるリゾートホテルの倒産、インバウンド蒸発の敵は関西にあり 海外資本が続々参入し、5つ星ホテルのパーク・ハイアットやリッツカールトンが開業。欧州の街角と見紛う道を歩けば外国語が飛び交い、コンビニの棚には外国の菓子や高級シャンパンが並ぶ。ちなみに路線価の標準宅地の上昇率は、6年連続日本一である。 このニセコの現状について、投資家の間では「バブルでいずれ崩壊する」という見方もある。地方創生の観点からは「富裕層向けで、大衆が訪れにくい」という批判も。 しかしニセコの「強さ」は本物だ。高級ホテルのアマンが2023年に開業を予定しており、建設中の高級コンドミニアムは、コロナ禍にあってもアジア系の海外富裕層などに、数億円で次々と売れている。大衆が訪れなくても、地域経済へのプラスの影響は計り知れないのだ。 なぜニセコは強いのか。成功の要因はどこにあり、そこから何を学ぶべきか。こうした問いに答えるのが、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)である。ニセコの開発史、「消費より投資」の考え方、世界金融市場の動向など、多方面からニセコを解説する。 著者の高橋克英さんは、三菱銀行やシティグループ証券などで富裕層向け資産運用アドバイザーなどを務めた後、独立して金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立、代表を務める。富裕層を熟知するのみならず、プライベートで20年近く毎冬のようにニセコを訪れる“ニセコ通”でもある。 そもそも、ニセコが世界に知られるようになったのは「パウダースノー」の存在だ。この世界最高クラスの雪質が評判となり、アジアやオーストラリア、欧米からもスキーヤーが訪れるようになった。そして、彼らのニーズを満たすべく海外資本の高級ホテルが次々と開業し、交通インフラの整備が進められてきた。 本書では、ニセコがコロナ禍に負けない要因の一つとして、観光客頼みの「消費」より、海外富裕層の「投資」が経済を牽引していることを指摘している。つまり、実体経済が打撃を受けても、金融市場が活況である限り、おカネが流れ込む構造である。 投資対象はホテルコンドミニアムで、いまやニセコの中心地がある倶知安町だけで約330棟。分譲マンションのように販売され、部屋の購入希望者は不動産開発会社などから所有権を購入。自ら滞在できるほか、ホテルのように貸し出してレンタル収入の一部を得ることができる。 先述したように、バブルの懸念はもちろんある。だが、本書の著者、高橋さんは、ニセコは当面安泰とみている。 その背景には、世界金融市場の大きな流れがある。コロナ禍以前から続く日米欧の金融緩和策、低金利政策の影響から、少しでも高い利回りを求め、世界の余剰資金が動いている。ミドルリスク・ミドルリターンの投資先として人気を集める一つが、先進国の高級リゾートの不動産だ。ニセコはその中で、いまや確固たる地位を築きつつあるという。 世界に目を向ければ、ニセコの不動産価格は世界のスキーリゾートの中では31位にすぎず、トップの仏クーシュベルの半額程度だ。欧米にはニセコを凌駕するリゾートがごまんとある。これはつまり、ニセコには、まだまだ値上がりする伸びしろがあることを示しているのではないか。 また、ニセコはもはや国民体育大会レベルではなく、オリンピックレベルの“プレーヤー”だ。競う相手は世界のスキーリゾートであり、存在感を発揮するためには、それなりの施設やサービスは必須、それに見合った高価格帯は必然だ。国内の一般市民ではなく、富裕層にターゲットを絞る戦略は、決して間違ってはいないのだ。