古今東西 かしゆか商店【宝船熊手】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回出会ったのは、11月の風物詩・酉の市に並ぶ「熊手」。古くから続く技法で熊手を手作りする工房を訪ねました。 【フォトギャラリーを見る】 年末が近づくと気になるのが酉の市。11月の酉の日、主に関東の神社で行われるお祭りです。境内には熊手を売る露店が並び、威勢のいい手締めの音が聞こえてくる。そんな風物詩の主役「熊手」を作り続けているのが、東京・浅草〈鷲神社〉近くにある〈よし田〉です。
「私どもの熊手は、注連縄を船首に見立てた “宝船熊手”。七福神さんや、神様のお使いの唐子さん、箕や珠などの宝ものを飾ります」 と語るのは4代目の吉田京子さん。竹を割って竹串を作ったり、厚紙を型抜きしたところへ筋書き(線描)や彩色を施して飾りを作ったり。酉の市に並ぶお店はたくさんありますが、昔から続く手描きの技法で熊手を手作りする工房は、〈よし田〉が唯一だとか。
「ウチでは代々ね、にっこりと、笑っているように描くんですよ」 日本画用の面相筆で七福神の顔を描きながら、そう話す吉田さん。 「お顔も着物も去年と変わりません。先代が描いていた絵と同じように、と気をつけながら作ります。作家じゃなくて職人ですから、飽きることなんてないですね」
どんなに小さな飾りも1枚ずつ手描き。だから、形は同じでも少しずつ表情が違うところが愛おしいんです。また、竹や注連縄、紙など、燃やせば土に還る自然素材だけを使っているのも特徴。なんと竹串に塗る糊まで手作りです。 「熊手作りと合わせて鳶職も営んでいるので、同業の皆さんからお正月飾りの門松の竹を譲り受け、竹串に再利用しています」
さて、次に見せてもらったのは、手作りした飾りを土台に組み込む「差し込み」の作業です。飾りに付けてあった竹串を切り出し刀で削り、位置を微調整しながら1本ずつ差していく。見えない部分に縁起のいい鏡餅の飾りが隠されていたりするのも、粋なんです。