茶席の喜び伝え 高岡茶会最終日、勝興寺 「太平の代」を願い
●加賀藩文化、巧みに 究極の「空間展示」 「平成の大修理」完工から1周年を迎えた高岡市伏木古国府の重要文化財勝興寺で24日、第29回高岡茶会(富山新聞社、北國新聞社主催、ラジオたかおか後援)が最終日を迎えた。2流派が穏やかな日常の訪れを願い、心づくしのもてなしを繰り広げた。加賀藩の商都として栄えた高岡の歴史文化を巧みに織り込んだ趣向が、茶会が開けることの喜びを伝えた。 【写真】三十六歌仙にちなんだ道具などでもてなした武者小路千家富山官休会の立礼席 大広間で本席を設けた茶道裏千家淡交会(たんこうかい)高岡支部は、不安が絶えない世の中で「太平(たいへい)の代(よ)に逢(あ)う幸せ」の思いを込めた道具をそろえ、来場者は一服を堪能した。 席主の喜多宗靖(そうせい)副幹事長(70)は、床に掛けた13代家元・円能斎(えんのうさい)筆の軸「幸逢太平代」や、茶杓(ちゃしゃく)「つつがなし」でもてなした。香合にあしらわれた意匠は、正倉院御物の装飾にも見られる花をくわえた鳳凰(ほうおう)の姿。吉兆を表し、高岡の命名由来「鳳凰鳴けり かの高き岡に」にもちなんだ趣向が来場者を楽しませた。 喜多副幹事長は「円能斎の頃もスペイン風邪が流行し、太平の代を願ったのでしょう。マスクをしない日々が早く訪れますように」と願いを込めた。 高岡市上牧野の会社員松谷和恵さん(61)は「当たり前の日常がなにより大切だと改めて感じた。稽古に励む仲間と、この思いを共有したい」と感じ入った。 初の高岡茶会となる武者小路(むしゃこうじ)千家富山官休(かんきゅう)会は本堂で立礼席を設けた。加賀藩の栄華を伝える名刹(めいさつ)を舞台に歴史を物語る道具をしつらえ、来場者を魅了した。 席主を務めた浅生(あそう)幸子理事(68)は、俵屋宗達と本阿弥光悦による「鶴下絵(つるしたえ)三十六歌仙和歌巻」を模して鶴の群れを描いた和紙に、13代家元・有隣斎(うりんさい)が、三十六歌仙の一人である壬生忠岑(みぶのただみね)の和歌をしたためた軸を紹介した。浮き立つような春の喜びを詠(よ)んだ忠岑の歌に加え、5月1日の高岡御車山祭にちなんだ茶わん「花山車」で、季節感を伝える一服を提供した。 浅生さんは「歴史のストーリーと土地柄がうまく組み合わさった道具の取り合わせで、究極のインスタレーション(空間展示)ができた」と話した。 この春、富山市内で「佐竹本三十六歌仙絵」の一つ、重要文化財「源重之(みなもとのしげゆき)」が公開されたばかり。同市の河洋子さん(80)は「三十六歌仙絵が富山に来たタイミングで、それにちなんだ道具をそろえてくれる心配りがうれしい。ぜいたくな空間に身を置くことができるのが茶会の醍醐味」と笑顔を見せた。孫の速星中2年、早瀬篤志さん(13)は「茶会は初めてだが、茶の文化や日本の心に触れることができ、感動した」と話した。 ●華展も最終日 勝興寺の書院や式台などで開かれた「特別華展」(富山県いけ花作家協会、富山新聞社主催)も最終日を迎え、黄緑の「マユミ」と白色の「カラー」の対比で爽やかな季節を表現した作品に来場者が見入った。