卵かけご飯が美味しくなる!「混ぜる」に特化した調理器具がヒットした理由
東京・町屋の中小企業が家族で紡いだモノづくり
卵を溶いて混ぜるだけのシンプルな調理器具が静かな話題を呼んでいる。この器具で溶いた卵は白身と黄身がよく混ざり、「まるでオレンジジュースのような色」「卵の味がよく活きる」と、利用者の反応は上々だ。均一な溶き卵になるため、特に日本人のソウルフードとも言える「卵かけご飯」との相性がいい。 【動画あり】ときここちを実際に試してみた 開発したのは東京・町屋の小さな町工場。新型コロナの影響で本業である精密板金加工が苦戦する中、家族みんなで少しずつアイデアを出し合い、製品化にこぎ着けた。予想外のヒットは活気だけでなく、「モノづくり」の楽しさと小さな誇りを工場にもたらした。
機能性と美しさ、安全性にこだわる
この調理器具の名前は「ときここち」。製作したのは社員20人弱の中小企業、トネ製作所(東京都荒川区、利根通社長)だ。本業である精密板金加工の技を活かし、複雑な形状の器具をステンレスの1枚板からベテランの職人がレーザー加工で一体成型した。ステンレス一体構造特有の曲線美にもこだわった。 普通、溶き卵を作るには菜ばしでかき混ぜるが、はしではどうしても黄身と白身がダマになってしまう。ときここちは、流動性のある白身に対し、0・7ミリの線で捉えてドロドロを断ち切る先端構造をしている。また、製品の研磨にも特殊な技術(企業秘密)を用いており、シンプルな形状ながら機能性や美しさ、安全性を実現した。例え形をまねして同じような器具を作ろうとしても、「同じような溶き卵は作れない。同じ使い心地になることは難しい」(利根社長)自信作だ。 卵を溶き専用という究極にニッチなツールとして販売しているが、「かき混ぜる」ことに特化しているため、ダマになりやすいカップスープや粉ミルクのほか、アスリートたちからは、「混ざりにくいプロテインもよく混ざる」と好評だという。
2019年6月、東京・池袋の東武百貨店で開催された「夏の職人展」でテスト販売をしたところ、折からの「TKG(卵かけごはん)ブーム」も相まって、目標の300本を超える315本の販売数を達成。イベントのMVP賞も受賞し、これを機にときここちは世の中へと知られることになる。その後、テレビ番組の人気コーナーにも紹介され、少しずつ注文が入るようになった。 メディアに取り上げられた直後、九州の老舗旅館から25本の注文が入った。口コミや実演販売などを通じ、板前やパティシエなどプロの料理人たちからも認められ、1本4290円(税込)と決して安い値段ではないにもかかわらず、すでに3000本以上、販売できたという。「リピーターが多く、プレゼント用に購入されていく方も多いようです」(利根社長)。