初音ミクの人気の理由と未来
日本には二次創作の文化的な素地?
また、日本でこのよう二次創作が広がった背景に、俳句の「季語」の存在があるのではないか、といいます。日本では昔から、愛好者が既存の作品に手を加えながら新しい作品を作り上げる文化活動が盛んで、それが俳句だというのです。太下さんはこう持論を語ります。「句会などで、新しい“季節感”を詠み込んだ句が詠まれ、その句に対する共感やレスペクトが生まれていくことで、その“季節感”を表現する言葉が『季語』として定着するという『二次創作』が行われている」。
メディアミックスの動き
初音ミクのライブ出演など、二次元の垣根を越えた活動についても、やはり技術的な要素があるといいます。「プロデューサーであれば、これをリアルに展開したいと思いつくはずだが、おそらく10年前は技術的にできませんでした」。初音ミクより先に、バーチャルアイドルの「元気ロケッツ」がライブを行ったことがありますが、これくらいのころから技術的に「ライブ出演」が可能になる下地ができていたのだというわけです。 ちなみに、太下さんによると、メディアミックス的な動きの先駆けとしては、1990年代後半に、デスクトップミュージック(DTM)をベースとして「東方Project」などが、ゲーム音楽を中心としたゲーム、小説、マンガなどのメディアミクスの創作活動を行っていたようです。
初音ミクの今後と可能性
初音ミクは、ソフトウェアなので、生身の人間では歌うことが難しいような超高速、変拍子の楽曲も制約なく歌わせることができます。太下さんは、初音ミクが新しい文化を生み出す可能性があると予測します。 「技術の革新が文化に大きな影響を与えます。表面的にも深層的な意味でもそう。表面的には、例えばシンセサイザーができたら、今までにできないような演奏ができるようになったり、テクノポップというジャンルができたりする。もっと深い部分で音楽が変わっていくこともある。その象徴的な例が、今回のケースでいうと初音ミクになります。そして、古い例でいくと、それはエルビス・プレスリーになります。1950年代、トランジスタラジオという新しい技術革新によって、黒人音楽に触れて育つ世代が出てきて、カントリーとリズム&ブルースを融合させた「ロックン・ロール」が誕生しました。ロックン・ ロールが生まれたのと同じようなことが、初音ミクとインターネットの世界の中で生まれるかもしれない。つまり、近い将来、まったく新しいジャンルのポップミュージックが誕生するかもしれません」。 ■太下義之(おおした・よしゆき) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター長。 文化経済学会<日本>理事。文化政策学会理事。文化審議会文化政策部会委員、東京芸術文化評議会専門委員。大阪府・大阪市特別参与、沖縄文化活性化・創造発信支援事業評議員、鶴岡市食文化創造都市アドバイザー、公益社団法人企業メセナ協議会監事。文化情報の整備と活用100人委員会委員。著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム発起人など。