「後出し」「分裂選挙」都知事選の歴史 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
言いなりにならない「一言居士」
都議会では戦後、自公が多数派です。多くの道府県では多数派と一体となって政治を行う知事が多いなか、歴代の知事はハイハイと操られるような者ではない「一言居士」が目立ちます。 多数派と異なった出身である美濃部、青島氏はもちろん、他の多数派と折り合っている風な知事も決して都議会の言いなりにはなりません。 自民党本部推薦の候補を破って初当選した石原慎太郎氏は「国政でできないことを都政でやる」と独自カラーを前面に押し出して3選まで自民党の推薦も受けずに勝ち切りました。その後継となった猪瀬直樹氏も副知事時代から参議院議員宿舎建設反対、東京電力改革、東京メトロと都営地下鉄の一元化など次々とぶち上げ、選挙でもやはり自民党の推薦はもらわず勝ちました。2013年の都議会議員選挙では「都議会のドン」内田茂都議(千代田区)の対立候補へ「私も応援しています」とのメッセージと顔写真を寄せてポスターに掲載されました。舛添要一氏も元々自民党を除名された過去があり、議会でも海外主張の多さや新国立競技場への対応などで自民党とぶつかっていました。 一番上手く運営していた鈴木俊一氏でさえ、前述のように4選目では自民党本部を敵に回して戦った過去があります。 こうした観点で今回の候補者を探っていくと、小池氏は自民党都連にケンカをふっかけての立候補で、公約に掲げた「都議会冒頭解散」は「冒頭に不信決議してみろ」と同じ意味なので、「一言居士」どころか初めから全面戦争です。増田氏も大臣時代に「地方法人特別税等に関する暫定措置法」をまとめて都議会から「東京都から税を召し上げる」と激しい反発を買いました。「極点社会」への言及など東京都の拡大に反対してきた年来の主張を知事として政策化すれば議会との激突は必至です。鳥越氏は都議会与党を最初から敵に回すので緊張する上、これまでの言動から考えて一転していいなりになるとも思えません。 つまり議会がコントロールできない「一言居士」の資格(?)は図らずも皆持ち合わせています。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】