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「山奥ニート」のリアル#6 月1万8000円で生きていく「山奥ニート」の収入

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本がすき。

和歌山県の限界集落で集団生活を営む「山奥ニート」。 集落のお爺さんやお婆さんのお手伝いなどをしてお小遣いを稼ぎ、なるべく働かずに生きていくことを実現した彼らの暮らしを、『「山奥ニート」やってます。』(石井あらた著・光文社)から全12回にわたって紹介します。

必要なお金が少ないと、稼ぐ方法にもいろいろな選択肢がある。 月に20万稼げる仕事は限られてるけど、月に2~3万なら意外となんとかなるもんだ。 僕が山奥に来て最初にやったのは「花切り」だ。 これは山に分け入って、サカキやシキビなどの葉っぱを採ってきて売るというもの。 花を切るわけでもないのに、なぜ花切りと言うかは謎だ。たぶん昔は山の中に生えているきれいな花も一緒に採ったんじゃないかと思う。 よく神主が振っている葉っぱがサカキ、お墓にお供えしてある葉っぱがシキビだ(宗派によっては違うけど)。 村の人が花切りの親方を紹介してくれた。 親方の車に乗せてもらって、サカキなどが生えている山まで連れていってもらう。完全出来高制で、採れた分がそのまま給料になる明朗会計だ。確か1束200円だったと思う。 慣れた人なら1日に100束採るそうだ。 出来高制はニートの性に合っていて、やる気が出ずにだらだらしていても一切怒られない。逆に気合を入れて頑張れば、それだけの成果が出る。 車道から山に入っていくのは、本来入っちゃいけないところに入っているようでドキドキする。道はアスファルトで舗装されたものだけじゃない。山の中にはうっすらとした獣道がたくさんあるんだと知った。ゲームのバグを利用して、壁の中を進んでいるような気分だった。 山の中は驚くほど静かで、自分が枯れ葉を踏む音しかしない。頭上の枝が風でたわんでざわついているときも、自分の立っているところは無風だ。木に守られているような気がした。 最初のうちは葉っぱの見分けがつかなかったけど、慣れてくると遠くからでも葉のツヤでわかるようになる。 売り物にする葉っぱは汚れや傷がなく、完璧にきれいじゃないといけない。 状態の良い葉っぱがたくさんあるスポットはなかなかなくて、なんとなくの勘が頼りだ。 ゲーム感覚でできる楽しい仕事なんだけど、調子に乗って他の人が見えないところまで離れると、途端にどっちが山の上か下かわからなくなる。 そういうときは声だけが頼りだ。 方向音痴の僕は、一瞬迷うだけで絶望的な思いをすることになる。 それに朝があまりにも早いのでだんだんと行かなくなってしまった。 あまり一生懸命にやらない僕でも30束は採れたので、続ければなかなかいい収入になったのかもしれない。 僕は行かなくなったけど、他の住人が今でも続けている。           * 僕が住んでいるのは和歌山県。紀州梅が名産品で、梅農家さんがたくさんいる。 近くの集落にも梅農家をやっている人がいて、そこで梅の収穫を手伝うことになった。 時給は1000円。このあたりにしてはなかなかのものだ。熟練者は時給1500円もらえるらしい。梅採りをすれば家が建ったという時代もあったそうだ。 梅採りの朝は早い。 夜明け前の5時から仕事開始だ。 薄暗い中、産毛が生えた青梅を背中のカゴにやさしく入れていく。 一回でも落とした梅は、もうアウト。時間が経つと色が悪くなってしまう。僕らが扱ったのは梅酒やケーキのデコレーションに使われる高級品だ。傷物は許されない。 脚立に登って梅の枝から顔を出すと、ちょうど朝日が昇ってくる。 朝露に濡れた梅は爽やかな香りがした。 青梅はかつて「青いダイヤモンド」と呼ばれて高値で取引されたそうだ。 今ではそのときより価格はずいぶん下がったそうだけど、まんまるで青緑色をした青梅は確かに宝石のようにきれいだった。 休憩のたびに、梅農家の爺さんは袋詰のパンを勧めてくれる。 マーガリンの入ったロールパン。なんでそんなにパンを食べさせたがるのかはわからない。どうも爺さん婆さんは、若者にパンを食べさせるのが好きらしい。 晴れた日は気持ちがいいけど、問題は雨の日だ。 ここの梅農家さんは青梅だけを出荷しているので、雨で地面に落ちてしまった梅は売り物にならない。 レインコートを着て、ずぶ濡れになりながら収穫する。 汗と水滴でサウナスーツを着ているようだ。 市場が午後3時に閉まってしまうので、それまでに選果作業を終わらせなくちゃいけない。 機械の上に広げた梅の中から、傷物を取り除いていく。 時間との戦いだ。大慌てで軽トラに詰め込んで、いってらっしゃい!  梅採りのバイトは6月から7月の短い期間だけだ。 今でもたまに手伝わせてもらっている。           * ここ数年は、夏になると同じ地域のキャンプ場から声がかかるようになった。 お客さんが泊まったバンガローの掃除が主な仕事だ。 僕たちが住んでいるところほどじゃないけど、キャンプ場も町から離れている。 他に若者はいない。 日によって何人行くかの人数調整もできる山奥ニートたちは重宝されている。 キャンプ場は夏しかオープンしないけど、働きたくないニートにとっては期間限定がちょうどいい。 知り合いの温泉旅館に泊まり込みで働きに行く山奥ニートもいる。 正月やゴールデンウィークなど、連休が近づいたときだけ人手が必要になるので、そのときだけ出稼ぎに行く。由緒正しい旅館で、皇族御用達だそうだ。山奥ニートが皇族の泊まる部屋を準備していると思うと、なんだか面白い。 書き起こしの仕事を知り合いのツテで紹介してもらったことがある。 インターネット配信の動画を見て、話していることを文字に起こしていく。 チャットで自分がやりたい分を自己申告して、書き起こしたファイルを送信。 後日給料が振り込まれる。部屋から一歩も出ずに、暇なときいつでもできる仕事だ。 山奥にいる大人数で割り振れば、安定して仕事になりそうだったけど、意外とタイピングが得意な人が少なくて僕が個人的にやるだけだった。           * 結局、今の僕の主な収入はブログの広告収入だ。月に数千円なら、そんなに更新頻度が高くなくても入ってくる。サボりすぎると赤字になる月もあるけど、いかにもお金目的にやっているブログは嫌いだから気楽にやっている。 なにしろ、ブログがダメでも山奥には稼げそうなことがたくさんある。 近いうちに苔の販売をやってみたい。 山に行けばどこにでも生えているから、元手はタダ(地権者への許可取りは必要だ けど)。 鮮やかな黄緑色をしていて、もこもこしたフォルムがかわいいから、けっこう売れると思う。熊野古道も近いから、外国人にも人気がありそうだ。 場所によって生えている種類が違って、トゲトゲしたものや、霞がかかったような色合いのものなどそれぞれ違う味わいがあって良い。 元手がタダなものは、他にも川に流れ着く流木を売るという手がある。 ただし、いい形の流木は探してみると意外と見つからない。アクアリウム用にするならアク抜きをしないと水槽が黄ばんでしまうらしく、手間がかかりそうだ。 それでも、ものによっては10万円以上するから侮れない。 もし電化製品などに強いなら、集落の便利屋としても稼げそうだ。 壊れた機械を直せる人は重宝される。直せずとも、村の人が電化製品を買うときにどんなものがいいか調べてあげるだけでもとても感謝される。ネット通販を使って、町の電器屋より安い値段で買ってあげれば、差額分をもらえるかもしれない。 運転免許があれば、村の人の買い物代行や、運転代行もできる。 うちの周りの川は鮎を目当てにした釣り客が多いので、そういう人に温かい飲み物を売る商売もできるだろう。自分で淹れた珈琲などを売るには保健所の許可が必要だけど、缶飲料をそのまま販売するのなら無許可でできる。 他には、近くにある別荘に持ち主が遊びに来る前に、水道や電気が無事か確かめる仕事なんてのもある。 「みんなと一緒に仕事をして、迷惑かけたくない」という理由でコンビニバイトをしていた住人もいた。コンビニまで車で山道を往復2時間。彼は原付で通っていた。大変そうだけど、通勤に時間がかかっても満員電車に押し込まれてるわけじゃない。 山道をひとりでドライブするのは彼にとって散歩のようなものらしく、通勤を楽しんでたみたいだ。 もちろんたくさんある耕作放棄地を借りて、農作物を作って売ってもいい。 僕は詳しくないけど、株取引や暗号通貨でもお金は作れるんだろう。 田舎は仕事が少ないと言われるけど、年間を通じて月20万もらえる仕事が少ないだけだ。期間限定だったり、単発の仕事はけっこうある。 15人で住んでいる今でも、仕事が多すぎて断ることがあるくらいだ。 過疎集落では、若いというだけで貴重な人材だ。 どうせ都会のもやしっ子だと思われているので、スキルは期待されてない。 遊びに来た孫が手伝ってくれているという感覚の人が多く、まるで仕事をしている気がしない。休憩も多い。 考える暇もないくらいに忙しい街のアルバイトとは、まったく別物だ。

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