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楽都・松本 音楽情操教育「スズキ・メソード」はここから世界に広まった

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ニューズウィーク日本版

──東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた

僕の幼少期の夢は「お百姓さん」だった。1970年代のアメリカのテレビドラマ「大草原の小さな家」の開拓民の暮らしに憧れていた。大人になったら、原作者でドラマの主役でもあるローラのお父さん(チャールズ・インガルス)のように、昼は農業や牧畜に汗を流し、夜になったらバイオリンを弾くような生活がしたかった。少年期にはそれが都会的に変化して「オーケストラのバイオリニスト」になったが、子供時代の夢の中心には「バイオリン」があった。 【写真特集】セクシー女優から受付嬢まで、トランプの性スキャンダル美女たち バイオリンを習い始めたのは幼稚園に入った頃だが、中学の途中で自分には音楽的才能がないと気づいてやめた。特に、楽器を自在に操るような器用さが自分には決定的に欠けている。高校に上がると、どういうわけか、仲良くなった友だちが揃いも揃って音楽の天才だった。その中には、名の知れたプロのミュージシャンになっている者が2人もいる。そのことも拍車をかけて、音楽的才能の欠如と音楽的挫折が、今日まで自分の最大のコンプレックスになっていた。

そんな自分の音楽の原点は、「スズキ・メソード」だ。バイオリニストの鈴木鎮一(しんいち)が創始した教育法で、僕は幼稚園に入った頃に、都内のスズキ・メソードのバイオリン教室に通い始めた。その後、カナダに引っ越してスズキ・メソードは継続しなかったのだが、今回、松本を歩くにあたって、鈴木鎮一の松本の自宅が今は記念館になっているのだと担当編集者から聞き、数十年ぶりにスズキ・メソードのことを思い出した。そして、スズキ・メソードが松本から世界に広まったことをあらためて知った。 松本は、「山“岳”」「音“楽”」「“学“門」の町の3つの「ガク」の顔を合わせ持つ、「3ガク都」である。松本市中心部を歩く今回は、観光の目玉である国宝・松本城や「蔵がある町並み」をおさらいしつつ、「楽」に重点を置き、市北部にある鈴木鎮一記念館を目指すことにした。

◆国産ギターの聖地

今日の旅の相棒は、やはりかつてミュージシャンを目指していたという、ギターやベースを弾くKカメラマンである。その彼が「最近気になる」と言うギターメーカー「フジゲン」の本社工場が、今回のスタート地点、JR篠ノ井線・平田駅の近くにあった。1960年創業のフジゲンは、高級クラシックギターと対米輸出用のエレキギターの生産から社業をスタートした。森林資源が豊富な「岳都」松本の立地を生かした木工産業の一つと言っていいだろう。1964-68年のエレキブームの時代には国内の大小80社がエレキギター生産に参入したというが、その後海外メーカーに押される形で、ほとんどが姿を消した。いち早くギター生産を始めたフジゲンは、老舗中の老舗であると同時に、現在も生き残っている数少ない国内ギターメーカーである。 30代のKカメラマンにとっては、フジゲンと言えば、アメリカの「フェンダー」をはじめ、国内外の超一流ブランドのギターのOEM生産を手掛けた1980年代以降のイメージが強いようだ。我々カメラマンとすれば、世界のトップブランドのOEMをしているメーカーと言えば、同じ長野県の「コシナ」(中野市)が思い浮かぶ。ドイツの超一流レンズメーカー、「カール・ツァイス」、同じくドイツの「フォクトレンダー」ブランドのカメラ・レンズの生産を数多く手掛け、国内大手メーカーのレンズも生産する。 2年前に、Kカメラマンを含むカメラマン仲間とコシナの工場見学をしたのだが、案内してくれたスタッフの皆さんの人柄からも、非常に誠実で真面目な社風を感じた。それは、信州人の県民性そのものである。フジゲンもきっと、そんな感じの会社なんだろうなあと思いながら、本社の門をくぐり、見学ができないか聞いてみた。もちろん、無理なのは承知のうえでのアポ無し訪問だったが、休日出勤の社員の方が丁寧に応対してくれた。ギター生産はここではなく、大町工場でしており、松本では輸出ブランドの車用ウッドパネルを作っているとのこと。多角化しないと生き残れない厳しい現実が垣間見える。現在のギターの生産拠点がある大町市は、ゴールの糸魚川の手前の最後の大きな町だ。うまくすれば、立ち寄って工場見学ができるかもしれない。 ちなみに、長野県はギターの生産日本一で、フジゲン以外にもギター関連メーカーが多くある。毎年松本で「信州ギター祭り」と銘打った展示会が開かれていて、コロナ禍の今年も、時期を8月から11月14・15日にずらして開催される予定だ。約150本の信州産ギターが展示されるという。

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