元五輪2連覇・内柴正人のプロデビュー決定報道を巡る賛否と違和感
それは唐突な発表だった。 総合格闘技イベント「RIZIN.15」が行われた横浜アリーナの記者会見場の片隅を借りる形で那須川天心のセミファイナルが終わると同時に総合格闘技イベント「REAL」を運営するファイティング・グローブ実行委員会の小林繁之取締役が記者を集め、柔道の66キロ級アテネ、北京五輪2大会連続金メダリストであり、現在、キルギス柔道連盟の総監督を務める内柴正人(40)が、8月から10月に福岡で行われる「REAL」の大会でプロ格闘家としてデビューすることを発表したのだ。 内柴自身が「打撃ありのMMA(総合格闘技)に興味を示していない」ため、試合は打撃なしのジャケットマッチで行われる予定だと言い、対戦相手には柔道、柔術の経験者がリストアップされているという。同団体の初代スーパーライト級王者のホベルト“サトシ”ソウザ(ブラジル)が「RIZIN.15」に出場、北岡悟にTKO勝利するなど「REAL」と「RIZIN」が“紳士協定”を結んでいる関係もあって多数のメディアが集まる機会が利用されたようだが、内柴がプロデビューする大会は、早くても4か月も先だ。運営団体に世論の動向を見たいという考えがあったのかどうかはわからないが、その場にいた筆者には「なぜ、このタイミングで?」の疑問が浮かんだ。 性犯罪を犯して服役していた内柴のプロ格闘家としてのデビュー決定報道は、大きな反響を呼んだ。ネット上で多数の賛否の意見が入り乱れた。その中には、プロデビュー決定を報道すること自体への批判もあったが、ほとんどが、まだ出所後、2年も経過していない段階で派手なプロの表舞台へ登場することへの批判的な意見だった。 「本人がどう生活するかは、出所後自由だが、被害者の感情や立場を考慮するならまだ早いのでは」「被害者の感情を考えるとメディアには出て欲しく無いと思う」「性犯罪者が堂々とメディア露出で復帰することに違和感を禁じ得ない」 内柴は、教え子への準強姦罪で2011年12月に逮捕され、裁判では、合意の上での行為で無罪を訴えたが、5年の実刑判決を受け、上告したが、高裁、最高裁でいずれも棄却され刑が確定。2017年9月まで服役していた。その罪の重さゆえに内柴は所属大学を懲戒解雇され、全柔連は事実上の永久追放となる会員登録の永久停止を決め、刑の確定後、内閣府は紫綬褒章の褫奪を決め、熊本の県民栄誉賞の取り消しや、記念植樹の標石の撤去、合志市、阿蘇市の市民栄誉賞の取り消しなどが決定している。 「罪を憎んで人を憎まず」という言葉もある。すでに刑期を終えた内柴は、十分な社会的制裁も受けており、彼が第2の人生をやり直すための経済活動を止める権利は誰にもない。