34年前の「俺たちやったぜ(やっちゃったぜ)」なホンダのバイク
突然だが、1970年代から90年代にかけてのホンダは、「アタオカ」な会社だったと思う。アタオカ――「頭がおかしい」のネットスラングだが、この場合は最上級のほめ言葉と思ってもらいたい。自分たちが面白いもの、良いもの、素晴らしいと信じるものを世に送り出すためなら、普通の営利組織では考えられないようなことも平気でやる、という意味である。 【関連画像】みんな大好きモトコンポ(イラスト=モリナガ・ヨウ) そのやりたい放題は、必ずしも発売時には世間に理解されない。だが、販売終了後に、とんでもない人気となることがしばしばある。 調べると1950年代、60年代も同様だったようで、それはつまり創業者の本田宗一郎(1906~91)と経営面で彼を支えた藤沢武夫(1910~88)というコンビがつくり出した社風だったのだろう。 この連載で以前書いた、ホンダ・モトラ(1982年発売)を見ればすぐに分かる(「快楽、それはホンダの『モトラ』を油まみれで直すこと」)。モトラはレジャーバイクだ。ちょっと格好良くてキャンプで便利に使えれば商品企画として成立する。ところが、そんなバイクに、ホンダは副変速機とか車高調整可能なリアサスペンションとか、「あったらいいけれど、それを使ったら高コストになっちゃう」という技術をぶち込んでくる。値段は高くなり、売れ行きは悪い。が、販売が終了した後に、「もう手に入らない他にない個性」が爆発的な人気を呼び、中古がとんでもない高値で取引されている。 あるいは、「ホンダホンダホンダホンダ」のCMで記憶に残る小型車、初代「シティ」(1981年発売)。当時斬新な背高ボディ、「シティ・ターボ」「シティ・カブリオレ」「シティ・ターボII」という商品展開にも度肝を抜かれたが、それ以上の驚きはシティの荷物スペースに合わせて設計された小型バイク「モトコンポ」だった。 ●マニアが群がるモトコンポ ハンドルとシートを折りたたむと、シティの荷物スペースにぴったり搭載でき、シティで遊びに行った先で乗り回す、というコンセプトだ。ただでさえ小さなクルマであるシティに、もっと小さなバイクが乗るのだから、そのオシャレさたるや。 しかし、モトコンポのエンジンは非力で、タイヤは小さく、サスペンションはふにゃふにゃで、楽しくがんがん乗り回すには、性能が足りなかった。小さなシティの荷物スペースに合わせて無理やり設計した結果である。しかも、見かけに反して重い(乾燥重量42kg)。全然売れず、最後は投げ売りのような状態で終わった。 が、モリナガさんの描いてくれたイラストでおわかりの通り、その特異かつかわいい外見と、改造のベースとして好適な設計、さらには大ヒットしたマンガ「逮捕しちゃうぞ」(藤島康介作、1986~92)に登場して活躍したことから、人気が爆発。腕に覚えのあるマニアが競って改造して「ものすごくよく走るモトコンポ」をつくるようになった。その結果、こちらも中古価格が高騰する。「納屋にしまわれていたフェラーリ」には及ばないが、「箱に入ったままの新品のモトコンポ」が発見されて、とんでもない高値を付けることも時折ある。 そんな「信じることを徹底的にやってのけるホンダ」の実例を、ひょんなことから改めて知ることができた。 始まりは30年来の知人である宇宙関係の技術者Kさんが、「今これに乗っている」とSNSに1枚の写真を投稿したことだった。