自費出版で1万部を記録した注目の若手作家・小原晩「自分の人生に起こったことはすべて自分にとって普通のこと」
■エッセイを書いているけど、自分のことを言うのは恥ずかしい ――文章を書き始めた瞬間を振り返るエッセイも収録されていますが、実は子どもの頃から読書好きってわけではなかったんですよね? 小原 又吉直樹さんの『東京百景』がきっかけですね。美容師をしていた頃に読みました。 ――それなのにいきなり自費出版でヒットを飛ばすなんて相当珍しいですよ。文学少女だったとか思われませんか? 小原 自分では気がついてなかったんですよね。本を出してから言われました。 ――しかも、今どき紙の本を選んだ。ブログもSNSもあるのに初めての表現の場が紙の本だから、めちゃくちゃ本好きな人なのだろうと思っていました。 小原 あー、そうですよね。たしかに。 ――でも、実際はそういうわけではなかった。 小原 なんかただ普通に生活をしていて編集者から声がかかることはないじゃないですか。でも文章は書いてみたかったから、自分で出版しようと思ったんです。最近リトルプレス(自費の小規模出版物)が流行っているという情報は、なんとなく自分の生活圏にも入ってきていましたし。 ――SNSでバズった人が本を出すって流れもすでに定着していましたが、それも考えなかった? 小原 いや、それこそSNS映えしそうなパンチのある一言みたいなものが、好みじゃないのかもしれないですね。 ――あまり自己顕示欲がない? 小原 人並みにあると思いますけど、自分のことを言うのが恥ずかしいんです。不動産屋に行ったときに、「どうしてこの街に住みたいんですか?」と聞かれるじゃないですか。本当は好きなマンガの舞台だからだったりするんですけど、なんか言いたくなくて、「理由はないけど住みたいんです」とか言ってしまったり。 結果的にもっと痛いやつになっているんですけど、自分では変なことだって気がついてなくて。一緒にいた恋人から、「なんで理由を言わないの?」と言われたときも、「自分にとって大切なことだから、よく知らない人に喋りたくない」「いや、それは良くないよ」と怒られたりしました。 ――「自分のことを言うのが恥ずかしい」のに、よくエッセイを書きましたよね。 小原 そうですよね。自分でも、矛盾していると思います。