自費出版で1万部を記録した注目の若手作家・小原晩「自分の人生に起こったことはすべて自分にとって普通のこと」
■地元を出て、ブラックな職場に ――ところで、小原さんのご出身は八王子ですよね? 作中で描かれる生活では東京都心に住まわれてる時のエピソードが多いですが、やはり都心に憧れがありました? 小原 そうですね。出身は八王子なので、一応東京出身なんですけど、都心への憧れはあったと思います。でもそれ以上に、八王子という町から出かったし、束縛するタイプの両親だったので、とにかく実家を出て自由になりたかったんです。 ――実家を出る、が最優先だった。 小原 母親も父親も八王子が地元ではないんです。とくに母親は、八王子という街を信用していない感じがあって。母親も美容師だったので、髪を切ってくれるんですけど、伸ばしていた髪をバッサリとボブにしてもらったあとに、学校で「おかっぱ」だと揶揄(からか)われて。 それを母親に話したら「八王子の人にはわからないのよ」って八王子のせいにするんです。それで、私も間に受けて、八王子出身なのに「そうか、八王子が悪いんだ」みたいな(笑)。母もほんとうに思っているわけではなくて、私がうるさすぎて、とにかく黙らせるために「八王子」という悪役が必要だったのかもしれません。 ――だからなのか、今は「レペゼン地元」っていう若者が増えている中で、小原さんは根無し草な感じがありますよね。 小原 そうですね。高校を卒業してすぐに八王子からでて、都心にある寮付きの美容室に就職しました。 ――でも、それが今どき珍しいくらいブラックな職場で。 小原 ただ、自分の人生に起こったことはすべて自分にとって普通のことだから、特殊な経験をしたとは思ってないんですよ。ごく自然に生きてきたつもりです。周りからは「激動だね」「まだ若いのに」とか言われることがあるんですけど、恥ずかしながら、仮説があって。 私は1996年生まれで、どうやらZ世代が始まった年齢らしいんですね。で、同世代が大学に行った4年間を、私は働いていたんですよ。もしかするとこの4年間に社会が大きく変わったんじゃないかと思っていて。まだ職場の上下関係とか根性論が微妙に残っていた時代に私は働いていたから、そこで経験したことが基礎になってしまってる部分があるので、今っぽくないのかもしれないなって。だから、上の世代の読者の方にも「わかる」と言ってもらえることがあります。