自費出版で1万部を記録した注目の若手作家・小原晩「自分の人生に起こったことはすべて自分にとって普通のこと」
自費出版のエッセイ集にも関わらず、1万部を超える異例のヒットとなった小原晩のデビュー作『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』が11月14日、大幅な加筆を経て実業之日本社から発売された。 【画像】注目を集める若手作家・小原晩さん TVプロデューサーの佐久間宣行氏や、ダウ90000の蓮見翔氏らが絶賛したことで知られる同書。いま注目の若手作家となった小原に、あらためて作家になった経緯や創作スタイル、本作に込めた思いを聞いた。 ■あこがれの人に帯文を書いてもらった ――以前から、「又吉直樹さんにあこがれて文章を書き始めた」と語っていましたが、今回はついに帯文を担当してもらいました。 小原 まだ現実感がなくて。何度読んでもうれしすぎて目が滑っちゃって内容が入ってこないくらいです。本当に奇跡だなって思います。 ――デビューからまだ2年半です。どんな日々でした? 小原 とにかく精一杯でした。依頼されて書く原稿にも難しさがあって。『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』は自費出版でしたけど、誰かに依頼された原稿は仕事ですよね。仕事にはコミュニケーションが発生するってことを考えてなかったんですよ。書くことの難しさプラス、コミュニケーションの難しさもある。そういう難しさを乗り越えるのに必死な日々でした。 ――自分はこういうタイプの書き手だっていうのは見えてきました? 小原 はっきりとあるわけじゃないですけど、エッセイに関しては、自分はイヤなことや苦手なことを書くっていうより、それが転じて面白くなってきちゃったことを書くのが今はしっくりきています。 例えば、めちゃくちゃイヤなことがあって落ち込んでいたのに、友だちに笑い話として喋って、それを聞いた友だちも笑ってくれるみたいな。そういうことってあるじゃないですか。だから、イヤな瞬間っていうよりは、それが消化されるタイミングを書いているのかなって。 ――2作目の『これが生活なのかしらん』(大和書房)もそうでしたが、日常を描くエッセイかと思いきや、ブラックな職場で働いてメンタルを壊したり、次々と引っ越したり、実はけっこう劇的な人生を描いていますよね。でも、不思議とゆるい感じに読めてしまう。このトーンは狙ったもの? 小原 最終的に推敲するときに、ドロっとしたイヤな部分は抜いて、なんとなく全体のバランスを整えるところがあるんです。だから、今回の加筆も以前のトーンに合わせることは意識しました。 ――例えば、仕事を辞めるエピソードでは、その前後は描くけど、決定的な瞬間は描いていない。「ここは書かない」というルールがあるのかなと思いました。 小原 というより、その瞬間が体の中に残ってないんですよ。それよりも帰り道で何を食べたとかのほうが覚えているんですよね。記憶力がいいって言われることがありますけど、友だちとディズニーランドに行ったことを覚えてなかったりしますし。「一緒に行ったじゃん!」「そうだっけ?」みたいな(笑)。 ――自分がそういうタイプだとは、書くことで気がついた? 小原 自分ではあんまり気にしてないんです。でも、友だちに「最近よく言われるんだよね」って言うと、「いや、ずっとそうだから。もともと変だよ」とは言われます。 ――普通、「印象的な思い出を描きなさい」と言われたら、ディズニーランドに行ったというイベントそのものを書く。でも、小原さんは帰り道の話を書いてしまう。そこが作家ならではの視点ですよね。 小原 そうですね。でも、私は「変」って言わるのはちょっとうれしいほうなんです。自分のことを普通の人間だと思っているので、個性があると言われたみたいでうれしい。相手はそういう意味で言ってるわけじゃないと思うんですけどね。