【毎日書評】SNSごときで安易に泣くな。簡単に「共感しない能力」を身につけよ!の真意とは
TikTokごときで安易に泣くな
著者はここで、「すぐに感動するな」と説いています。もちろん感動すること自体は悪いことではないでしょう。とはいえ、理解しておくべきことがあるということのようです。 感動も一種の共感だ。すぐに感動する人は心が優しいと思われがちだが、たかだか数十秒程度のショート動画を見てすぐに涙するのは、ほぼ反射で目から水が出ているようなものだ。(129ページより) 感動のツボは人によって違うものの、パターンはそれほど多くありません。家族愛、友情、動物との絆、困難を乗り越える瞬間、過去への思いなどの要素を並べていけば、どれかひとつくらいは心の琴線に触れるわけです。 つまりパターンは出揃っているので、制作者側がその気になれば感動は安易に仕掛けられるということ。そうやってアウトプットされたものと、受け手のなかにある感動の回路が噛み合えば、情動的共感はたやすく発動されてしまうのです。 だからこそ、感動するものには気をつけなければならない。 ドラマや映画ですぐに感動して泣いてしまう人は、自分が共感に騙されやすい人間であると自覚しておいたほうがいい。フィクションを見て涙しそうになったときは、「自分は今何に心を動かされたのか?」といったん立ち止まって自問自答してみてほしい。(130ページより) なんにでも共感する人間は、すぐに流されてしまうものだと著者はいいます。それが、騙されてしまうことにつながるケースもあることでしょう。そこで、目先の情動に引っぱられず、「自分がなにに共感し感動する人間なのか」を知っておく必要があるのです。(129ページより)
中年以降は、共感力が否応なく高まる
「歳をとると涙もろくなる」といわれますが、実際に中年を過ぎると感動のハードルは昔よりも低くなるのが普通だといいます。著者によれば、理由は次のとおり。 ひとつは、単純に人生経験が増えるためだ。子どもが生まれて親になれば親子の感動ストーリーに弱くなるし、幼い子どもが健気にがんばっているような姿にもすぐほだされる。親しい人の喪失を経験すれば、死にまつわるストーリーに自分の経験を重ねて涙するだろう。 長い人生を通じてさまざまな感情を知り、多種多様な人と関わり合うことで、他人の気持ちに敏感になれるのだ。(131ページより) 他にも理由はあるでしょうが、ともあれ中年以降になると涙もろくなり、共感力が否応なしに向上する側面もあるようです。 人間は生まれつき、他者とのコミュニケーションを通じて新たな自分をつくっていく衝動を持っているようにも思えます。しかし、生きている限りずっとその状態が続くわけではありません。個人差はあるものの、高齢になると「異質な他者は絶対に受け入れない」という脳に変貌する人も少なくないそう。 まだまだ先のことかもしれませんが、少なくとも、いまの自分を客観的に判断できる視点は持っておきたいものです。(131ページより) 共感が、人類進化の原動力であることは間違いないでしょう。しかしその一方、SNSの発達あるいはコロナ禍によって、さまざまな副作用が生まれたと著者は指摘しています。そこからの脱却について考察した本書を参考にしながら、共感のバランスを整えてみるのもいいかもしれません。 >>Kindle Unlimitedの3カ月無料キャンペーン【10/20まで】 Source: 祥伝社新書
印南敦史